このページの要点
- 労働者に当たるかは実態で判断(労働基準法9条)。諾否の自由・指揮監督・拘束性・代替性・報酬の性格などを見る。
- 週5日の受付枠・月額固定・店舗運営の業務・代わりの者を立てられない、は雇用に寄る条件。
- ガイドラインは「遅刻」「社内トレーナー」など雇用の言葉を避け、サービスの仕様として書く。写しは交付して記録する。
- FCではトレーナーとの契約の当事者と報酬の支払者を加盟店にそろえる。
結論:業務委託かどうかは、契約の名称ではなく働き方の実態で決まる
パーソナルトレーナーやピラティスのインストラクターを業務委託で抱える店は少なくありません。ただ、労働者に当たるかどうかは、契約書の題名ではなく働き方の実態で判断されます。労働基準法9条は「労働者」を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。
判断の枠組みとしてよく参照されるのが、昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告です。①仕事の依頼への諾否の自由、②業務の遂行上の指揮監督、③時間的・場所的な拘束性(④代わりの者を立てられるかという代替性は、指揮監督を補強する要素)、⑤報酬が労務の対償といえるか、を中心に、補強の要素として⑥事業者性(機械・器具の負担、報酬の額、損益の負担)、⑦専属性を見ます。業務委託の施術者について労働者性を認めた裁判例もあり、リラクゼーションや整体の業界も例外ではありません。
労働者と判断されると、割増賃金・最低賃金・年次有給休暇、社会保険・労働保険、解雇や雇止めの規制、報酬からの控除の制限、給与所得としての源泉徴収、消費税の仕入税額控除ができないことなど、影響は契約のあらゆる部分に及びます。
パーソナルジム特有の「雇用に寄る」条件
業務委託のトレーナーを抱えるパーソナルジムの運営会社の案件で、事務所は、既存のトレーナーとの契約を業務委託に整える書類をレビューしました。依頼者原案は、本文24条に別紙(個別の契約条件と既存契約者の報酬条件)を付けたもので、担当店舗・担当曜日(週5日)・予約受付可能時間(朝から夜まで13時間あまり)を別紙で定め、トレーナーは原則2日前までに申告すれば枠をブロックでき、店は受付枠の中で予約を入れられる、報酬は月額固定で担当日に対応できない日があっても日割りで控除しない、としていました。ガイドラインでは清掃・施錠・在庫の確認・売上の入力などを基本業務に挙げ、外部への再委託には店の事前承諾が必要でした。
| 項目 | 業務委託として説明しやすい | 説明が難しい |
|---|---|---|
| 報酬 | セッション単価×実施回数 | 予約の有無・回数にかかわらない月額固定 |
| 時間 | 受ける日・時間帯をトレーナーが月ごとに申告 | 週5日・朝から夜までの受付枠を店が予約で埋める |
| 業務の範囲 | 清掃などは別の業務として内容と対価を分け、引き受けは任意 | 清掃・トイレ清掃・ゴミ・施錠・在庫・売上入力などを基本業務に含める |
| 代替性 | 登録制にして、確認を条件に代わりの者を手配できる | 自分の判断で代わりの者を立てられない |
| 費用・器具 | トレーナーが自分の判断で負担する | 店の器具・ユニフォーム、定期代の定額支給 |
事務所は、右の条件を左に移すことは事業の運営方法そのものの変更であり、今の働き方を維持する必要があるなら雇用として受け止めるのが本来の形である、と指摘しました。
「業務委託らしく」見せる条項(専門的な裁量、待機義務なし、他のジムでの活動を認める)を増やしても、日々の働き方を決める条件が変わらなければ評価は変わりません。「強行規定の適用を排除しない」「社会保険の義務を免除しない」といった確認の条項は、かえって「雇用と判断される可能性を当事者が認識していた」と読まれる材料にもなります。
既存トレーナーとの契約を、実態に合わせて書き直す
この案件では、確認事項への回答で、前提となる事実が書面とかなり違うことが分かりました。トレーナーは予約がある時だけ店にいて、予約がなければ自由、ブロックは週2〜3回・1時間程度、施錠はトレーナーが行い、定期代を定額で支給、担当外の曜日は役員が担当、他のジムで活動している人はいないが制限もない、というものです。拘束性は書面より弱いのですが、書面が実態より拘束的に書かれている部分は、それだけで店に不利な材料になります。
事務所の書類での改訂 既存トレーナーの切替え用の業務委託契約書
予約受付可能時間
理由受付枠を「店が予約を入れられる時間」ではなく「トレーナーが予約を受けられる時間として申告する時間」と位置づけ、書面を実態に合わせるのが最も負担の小さい対応でした。
従前の書面
理由過去の書面は消えず、紛争の際に「当初から雇用と同様に扱われていた」証拠として出され得ます(誓約書と契約書の食い違い)。
書類の共通化
理由同じ店のトレーナーで契約条件の書き方がばらばらだと、説明も管理もできなくなります。
定期代の定額支給は、通勤手当に近い外観を持ちます。交通費を払うなら、実費か定額か、源泉徴収の対象に含めているかもあわせて確認します(トレーナー報酬・源泉徴収)。
ガイドライン(マニュアル)は、就業規則の言葉で書かない
同じ案件の依頼者原案のガイドライン(33項目)には、「本ハウスルール」「会社が社内トレーナーによる代行等を調整」「遅刻・緊急時」、指定のウェア・身だしなみ・香水・セッション中のスマートフォンの利用、月1回のミーティング、月間売上・セッション数などの「定期共有事項」、「…ものとする」「…してはならない」が多く使われていました。項目番号の重複や欠番、文書の名称が4通りあることも見つかりました。
| 原案の言葉・項目 | 読まれ方 | 書き直しの方向 |
|---|---|---|
| 「社内トレーナー」 | 店の従業員と同じ立場 | 「他のトレーナー」 |
| 「遅刻」 | 勤務時間の拘束 | 「予約時刻にセッションを開始できない場合」のお客様への対応の手順 |
| 指定ウェア・身だしなみ | 服務規律 | 「顧客が店舗のサービスであると認識できるよう、店舗が指定するウェアを着用してセッションを提供する」のように、サービスの仕様として書く |
| 月1回のミーティング | 業務命令による会議への出席 | 方法も相談で決め、目的を情報共有に限る |
| 定期共有事項(売上・セッション数) | 業績の報告義務 | インセンティブの算定に必要な実績の確認と位置づけ、システムで確認できるものは求めない |
書き方を変えるだけで判断が覆るわけではなく、契約条件の整理と一体で行います。
改訂版のガイドライン(31項)では、第1項に定義を新設し、権利義務は契約書の定めによること、ガイドラインと契約書が抵触すれば契約書が優先することを置きました。担当日に業務が難しいときは「原則として事前に会社に連絡」、急な体調不良のときは「判明した後速やかに」など、命令ではなく連絡と手順として書いています。
ガイドラインの「交付」にも注意が要ります。この案件では、ガイドラインは「交付の際は役員と確認し、店舗に保管している」とのことでしたが、店舗に共用で置いておくことは契約書のいう「交付」に当たると言い切れません。業務の内容を定める文書の写しを渡すことは、フリーランス法3条の取引条件の明示(すべての業務委託事業者の義務)の一部でもあるので、書面又はPDFで写しを交付し、契約書の別紙の「交付及び確認記録」欄に交付日と版を記録する形にしました。ガイドラインを変更するときは、全員に30日前までに全文・変更箇所・新しい版と施行日を通知することも定めています。
ピラティスのインストラクター契約に見る「業務委託の柱」
ピラティススタジオのインストラクター業務委託契約書は、三つの事業者の案件があります。そのうち一つ(依頼者の指定条件を反映した当初版)は、契約の性質として、雇用ではないこと、遂行の方法・時間配分・手段・受託の可否をインストラクターが自ら決めること、スタジオは結果にのみ関与し具体的な指揮命令をしないこと、税務・社会保険はインストラクターが処理することを書き、業務内容は個別レッスン(60分)、カウンセリング・接客、開閉店の作業・簡易な清掃、任意のSNS発信、スケジュールはインストラクターの希望に基づき協議し受託の可否はインストラクターが自由に決める、自己の責任で代わりのインストラクターを手配できる(事前通知)、ランク別のレッスン単価、という構成でした。
諾否の自由・代替性・出来高(レッスン単価)を契約の柱に置いた例です。再委託の条項は、インストラクターが自己の責任で業務の全部又は一部を第三者に再委託でき、事前に再委託の内容と再委託先の概要を通知し、再委託先に同等の義務(秘密保持を含む)を課し、再委託先の行為はすべてインストラクターの行為とみなす、スタジオは再委託先が適切な遂行に支障を及ぼすおそれがあると合理的に判断すれば中止・変更を求められる、という三点の組合せでした。代替性を認めつつ、お客様の安全と個人情報の管理を確保する書き方として参考になります。
一般論として、開閉店や清掃を業務に含める場合は、前出のパーソナルジムの案件で整理したとおり、「レッスンに付随する範囲(使った器具の清掃など)」と「店舗運営の業務」を分け、後者は内容と対価を分けて依頼する方が、業務委託として説明しやすくなります。別のスタジオの当初版のように、稼働の頻度を「週3回以上または1日あたり2レッスン以上を原則」としたい場合も、最低稼働を義務として課すと拘束性が強まるため、受ける日と時間帯はインストラクターが申告し、報酬の算定方法で調整する、「目安」「協議で調整」にとどめる書き方が考えられます。3か月の試用期間を設けて継続を判断したいという条件のあった当初版もありましたが、「試用期間」「勤務態度」といった雇用の言葉は労働者性の材料になり得るため、導入の期間を置くなら「当初の契約期間を3か月とし、満了時に双方協議のうえ更新する」のように、期間と更新の問題として書く方法があります。
AIドラフトの「雇用ではない」の繰返しと、FCでの契約当事者
パーソナルジムの事業資産の売買・トレーナー業務委託・FC加盟の三つの契約を同時に結ぶ案件の依頼者原案(AIドラフト)は、雇用関係がないことを3か条にわたって繰り返し確認し、業務の指示(メール・業務管理ツール)は契約内容の一部を構成する、店は業務の内容・分量・期間を合理的な範囲で変更・追加でき、トレーナーは誠実に協力する、個人事業の開業届・青色申告の承認申請書を1か月以内に提出して控えを出す、店は源泉徴収義務を負わないことに「将来にわたり異議を述べない」、トレーナー育成への無償の協力、病気・妊娠・メンタルヘルスで1か月以上業務ができなければ即時解除、という内容でした。
- 「雇用ではない」の繰返しは、実態の判断を左右しません。
- 業務の指示が契約内容を構成する、一方的に業務を追加できる、無償で育成に協力する、という定めは、指揮監督や事業組織への組入れの事情になります。
- 開業届の提出の義務付けは事業者性を作り出そうとするもので、実態がなければ効果はないと考えられます。
- パーソナルトレーニングの報酬は源泉徴収の対象で、「源泉徴収義務を負わない」と合意しても税法上の義務は変わりません(源泉徴収)。
- 妊娠を即時解除の事由に挙げることは、店が特定業務委託事業者なら、育児・介護などへの配慮の義務(フリーランス法13条)との関係で問題になり得ます。
特定の競技に特化したパーソナルジムのFC本部からは、「トレーナーとの契約の当事者は本部、報酬の支払者は加盟オーナー」とする案と、両方を加盟オーナーにそろえる案のどちらがよいか、というご相談がありました。事務所は、契約の当事者と報酬の支払者を分けると、本部が実質的な発注者として指揮監督に関与しているとみなされやすく、労働者供給・職業紹介や労働者派遣への該当が疑われ、フリーランス法上の義務が本部に生じる可能性も高まるとして、加盟店にそろえる設計を維持するようお勧めしました。改訂後のFC契約書には、労働基準法・フリーランス法の適用の有無と内容は加盟店とトレーナーの契約で整理すべき事項であり、加盟店は「諾否の自由の有無、指揮監督の有無並びに時間及び場所の拘束の程度等の実態に即して」労働者に当たるかを判断する、と判断の基準まで書き込み、本部の報酬ランクは推奨の基準で拘束しないこと、本部は職業紹介・労働者供給を行わないことも明記しました(フランチャイズ契約)。
同じFC本部の案件では、研修の仕組みも契約に書き込みました。ヒヤリングで受け取った研修カリキュラムの項目を、オンライン中心の所定の回数に配分し、各回の受講状況を記録すること、各回の後の理解度テストに合格した場合に限り次の回に進むこと、最終回は初回のトレーニングの案内から実施・クロージングまでの実演を本部がオンラインで確認して合否を判定すること、正当な理由のない欠席は別の日程で受講させることを定めています。これは事業者である加盟店に対する研修です。個人のトレーナーに店が研修の受講を義務付ける場合は、それ自体が指揮監督の要素になり得るので、FCの加盟店への研修と、業務委託のトレーナーへの研修の義務とは分けて考える必要があります。
契約の終わらせ方にも、業務委託ならではの決まりがあります。ピラティススタジオの当初版の一つは、「信用失墜行為」(スタジオの社会的信用・営業上の評価・ブランド価値を傷つけ又はそのおそれのある行為。SNSでの不適切な発信、正当な苦情への不適切な対応や放置、スタッフ間の紛争を重大化させて運営に支障を生じさせる行為、無断欠勤など)を定義し、無催告解除の事由に「報酬体系その他契約条件に関し重大な対立が生じ契約の継続が困難」「スタッフ間の紛争その他の事情によりスタジオ運営に重大な支障」を含めていました。一般論として、店が特定業務委託事業者で、6か月以上の継続的な業務委託(同法施行令3条)であれば、解除や不更新には少なくとも30日前の予告と、求めに応じた理由の開示が必要です(フリーランス法16条)。予告が要らない例外は省令で限定されており、その一つは特定受託事業者の責めに帰すべき事由により直ちに解除することが必要と認められる場合です(同法の厚生労働省関係施行規則4条4号)。「条件をめぐる対立」「スタッフ間の紛争」を即時解除の事由にするなら、この例外に当たるかを意識して事由を具体的に書く必要があります(解除の予告と休業時の報酬)。
新しいトレーナーを募集するときの表示
前出のパーソナルジムの運営会社は、複数の役員と従業員がいる会社で、フリーランス法の「特定業務委託事業者」(業務委託をする事業者のうち、個人なら従業員を使用する者、法人なら2人以上の役員がいるか従業員を使用する者。同法2条6項)に当たりました。特定業務委託事業者が広告などでトレーナーを募集するときは、業務の内容、業務に従事する場所・期間・時間、報酬、契約の解除(更新しない場合を含む)、募集を行う者に関する事項について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません(同法12条、同法施行令2条)。新規のトレーナー向けの報酬条件の別紙を整える際には、求人サイトやSNSの募集の表示と、別紙の報酬・担当曜日・時間が食い違わないようにする必要があります。
ヒヤリングの問いと理由 トレーナー・インストラクターと業務委託契約を結ぶ前の確認
- 報酬は月額固定ですか、セッション・レッスン単価ですか。報酬の単位は、労働者性の評価にも、休業時の扱い(フリーランス法の減額の禁止)にも直結します。
- 受ける日・時間帯は、誰が決めていますか。予約が入っていない時間は自由ですか。書面を実態に合わせます。実態より拘束的な書面は、それだけで不利な材料になります。
- 清掃・施錠・受付・在庫・売上入力をお願いしていますか。レッスンに付随する範囲と店舗運営の業務を分け、後者は内容と対価を分けます。
- 過去に交わした試用期間の契約・誓約書はありますか。新しい契約との関係(何を存続させ、何を終わらせるか)を別紙で特定します。
- 店は、従業員を使用していますか。役員は2人以上いますか。フリーランス法の特定業務委託事業者に当たるかで、負う義務の範囲が変わります。
よくあるご質問
トレーナーを業務委託にするとき、何が雇用と判断される理由になりますか?
仕事の依頼を断れない、業務の進め方を細かく指示される、勤務の日時と場所を店が決めて拘束する、代わりの者を立てられない、報酬が働いた時間に対する対価になっている、といった事情です。器具や費用の負担、専属性も補強の要素として見られます。契約書の題名ではなく実態で判断されます。
月額固定で報酬を払うと労働者になりますか?
月額固定だけで直ちに労働者になるわけではありませんが、予約の有無やセッション数にかかわらない月額固定は、報酬が労務の対償であるという評価に傾く事情です。週5日の担当や店舗運営の業務と組み合わさると、雇用に寄った評価になりやすくなります。
業務委託のトレーナーに店の清掃や鍵締めを頼んでもよいですか?
使った器具の清掃などレッスンに付随する範囲と、店舗全体の清掃・施錠・受付などの店舗運営の業務を分け、後者は内容と対価を分けて依頼し、引き受けるかどうかを任意にする方が、業務委託として説明しやすくなります。
マニュアルや服装の指定はどこまで許されますか?
サービスの品質やお客様から見た分かりやすさのための指定は、サービスの仕様として書けば説明しやすくなります。「遅刻」「服務」「社内トレーナー」など雇用の職場の言葉を避け、命令ではなく手順として書きます。ただし書き方だけで判断が覆るわけではなく、契約条件の整理と一体で行います。
「試用期間」を設けたいのですが、業務委託でも使えますか?
「試用期間」「勤務態度」といった言葉は雇用の言葉で、労働者性の材料になり得ます。導入の期間を置きたいなら、当初の契約期間を短めに定め、満了時に双方協議のうえ更新する、という期間と更新の問題として書く方法があります。
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