このページの要点
- 契約は導入企業と事業者の間で組み立てる。事業者どうしの契約には消費者契約法は適用されず(同法2条3項)、特定商取引法の訪問販売などの規律も除外される(同法26条1項1号)。
- 個別の予約は、事業者が予約の確定を通知した時に成立する形にし(民法522条1項)、利用対象者の名簿、枠の確保、回数の記録を一つの条にまとめる。
- 料金は、年間の上限回数と最低回数、チケットの最低枚数、最低保証料、交通費の起点と距離、請求書の区分を一体で設計し、実施場所の条件を満たさないときは実施しない定めと対価の扱いを置く。
- ホテルとの提携は、紹介型、取次・収納型、ホテルのサービス型のどれかを決め、客室での条件、衛生と風紀の禁止事項、「マッサージ」の表示(あはき法1条・7条)を提携契約で定める。
結論:契約は導入企業と事業者の間で組み立て、利用する人は当事者にしない
企業の福利厚生として、事業者が企業の事業所や会議室に出向き、従業員にコンディショニングや施術を提供する。この形で、サービスを受けるのは従業員ですが、報酬を払い、利用の条件を決めるのは導入企業です。契約書を組み立てるときも、最初に「誰と誰の契約か」を決めます。基本は、導入企業と事業者の間の、施術やコンディショニングの提供を委託する契約の一本です。従業員は、導入企業が事業者に頼んだサービスを使う「利用対象者」として位置づけます。
事業者どうしの契約なので、消費者契約法は適用されません。同法は消費者と事業者との間の契約を対象にしており(同法2条3項)、事業として又は事業のために契約の当事者となる個人は「消費者」から除かれます(同条1項)。特定商取引法も、営業のために又は営業として締結される役務提供契約については、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売の規律を適用しないと定めています(同法26条1項1号)。出張して施術するので訪問販売のように見えても、相手が導入企業であれば、クーリング・オフの書面も、解除に伴う違約金の「平均的な損害」の上限(消費者契約法9条1項1号)も、この契約には出てきません。
これは、契約の中身を自由に決められるということです。反面、書いていないことは決まっていません。キャンセルの扱い、年間の回数、更新、実施できなかったときの対価は、民法の一般的な原則(信義則、公序良俗、損害賠償額の予定)と契約書の条文だけが拠り所になります。
注意したいのは、従業員個人と事業者の間に契約ができる設計にしたときです。たとえば、導入企業の補助を超える部分を従業員が事業者に直接支払う、従業員ごとに申込書を取る、といった運用です。この部分は、消費者と事業者の契約になり得ます。企業の補助と従業員の自己負担を組み合わせるなら、自己負担分の請求先と契約の相手を先に決め、どこまでが事業者間の契約で、どこからが個人との契約かを分けて書きます。
法人向けの出張サービスの関係(例)
導入企業と事業者
民法(業務委託)。消費者契約法は適用されない
報酬、回数、期間、更新、実施場所の条件、指示の窓口を決める。契約書の中心。
利用対象者(従業員)
契約の当事者ではない
導入企業の通知で資格が決まる。直接の請求権を与えるかどうかを、契約で先に決める。
事業者とスタッフ
雇用か業務委託かで規律が変わる
業務の指示は事業者の責任者が出す。導入企業の担当者は施設の案内にとどめる。
ホテルと宿泊客(提携型)
ホテルと事業者の提携契約、宿泊客との施術契約
宿泊客は消費者。施術契約の相手方と、客室での条件が別の論点になる。
図の上の三つは導入企業向けの契約、下の一つはホテルとの提携です。事故の責任分担は事故・保険と出張・法人向けサービス、健康情報はカルテ・健康情報で扱っています。
個別の予約の確定、利用対象者の名簿、回数の数え方
導入企業との基本の契約で枠組みを決めても、実際のサービスは「この日、この場所、この時間、この人」という個別の予約ごとに提供されます。ここが曖昧だと、変更、キャンセル、回数の数え方で揉めます。
個別の予約は、利用対象者又は導入企業の窓口からの申込みに対して、事業者が予約の確定を通知した時に成立する形にしておくと、成立の時点が一つに定まります。契約は、申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立し(民法522条1項)、成立に書面などの方式は要りません(同条2項)。つまり、書き方を決めておかなければ、メッセージのやり取りのどの時点で成立したのかが争いになります。確定の前は「仮予約」にとどまり、枠が埋まっていれば事業者が断れることも、あわせて書きます。
条文例
個別予約の成立、利用対象者、回数の記録(導入企業との契約の条文例)
1乙(事業者)は、甲(導入企業)又は利用対象者から、乙が定める方法により、実施の日時及び場所を示して予約の申込みを受けたときは、空き状況を確認のうえ、予約を確定する旨を通知する。予約は、乙がこの通知を発した時に成立する。
2乙は、前項の通知の前に、希望された日時、担当者及び実施場所を保証しない。
3甲は、利用対象者の氏名その他乙が定める事項をあらかじめ乙に通知し、乙が利用の資格を認めた者に限り、本サービスを利用させる。通知した内容に変更があったときは、甲は速やかに乙に通知する。
4乙は、実施した回数を予約ごとに記録し、請求書に添えて甲に示す。
予約の成立の時点、名簿、記録の三つを一つの条にまとめた例です。キャンセル料の判定の順序は予約キャンセルの「1回消化」・休会・退会で整理しています。
利用対象者の名簿には、氏名や所属が載ります。導入企業が従業員に説明したうえで事業者に提供するのか、事業者が利用の際に従業員から直接取得するのかを決め、導入企業が従業員に伝えるべき事項を契約書に書いておきます。健康状態の申告の扱いはカルテ・健康情報で整理しています。
もう一つ、決めておきたいのは、従業員に事業者への直接の請求権を与えるかどうかです。契約により当事者の一方が第三者に給付をすることを約したときは、その第三者は債務者に直接その給付を請求する権利を有し(民法537条1項)、この権利は、第三者が契約の利益を享受する意思を表示した時に発生します(同条3項)。福利厚生では、従業員に直接の請求権まで持たせる必要はないことが多く、「導入企業のために利用対象者にサービスを提供する」と整理して、要望や苦情は導入企業の窓口を通して伝える形にします。ただし、事故によるけがなど、従業員本人が事業者に損害の賠償を求める場面は、この整理とは別に起こり得ます。
ヒヤリングの問いと理由 導入企業との契約を作る前の問い
- 利用対象者は誰ですか。派遣社員、委託先のスタッフ、家族は含みますか。範囲を広げるほど、名簿の管理と請求の根拠が複雑になります。含めるなら別の欄に書きます。
- 予約は、誰が、どの方法で入れますか。導入企業の担当者がまとめて確保しますか、個人が申し込みますか。個別予約の成立の時点と、変更・キャンセルの窓口を決めるための問いです。
- 回数は、予約の確定時と実施時のどちらで数えますか。キャンセル料の発生と、期末の未消化の計算がここで決まります。
- 従業員が自己負担する部分はありますか。あるなら、その部分の契約の相手と請求先を分けて書きます。
- 従業員に事業者への直接の請求権を認めますか。認めない場合は、要望と苦情を導入企業の窓口に集める条文とセットにします。
料金設計:年間回数、チケット、最低利用枠、交通費、請求書
法人向けの出張サービスの料金は、月額や年額の固定、年間の回数枠、チケットなど、いくつかの形があります。どの形でも、「いくら払えば、何を、どれだけ、いつまで使えるのか」を、請求の段階で導入企業の担当者が社内に説明できる必要があります。
| 方式 | 仕組み | 向く場面 | 決めておくこと |
|---|---|---|---|
| 月額固定と月間回数 | 毎月一定額で、月ごとの回数枠を付与する。 | 定期的に実施する企業 | 未利用分を翌月へ繰り越すか。利用が少ない月も支払うことを明記する。 |
| 年間回数枠 | 契約期間中の回数の上限と最低回数を定め、期間の終わりに精算する。 | 繁閑の差がある企業 | 上限と最低の違い、期末の未消化分、期中の増枠。 |
| チケット制 | 一定の枚数をまとめて購入し、使った分だけ消費する。 | 利用の頻度が読みにくい企業 | 最低購入枚数、有効期限、期限の延長、枚数の追加と単価。 |
| 都度精算と最低利用枠 | 実施ごとに請求し、期間内に最低限実施する枠を定める。 | 試験的な導入 | 最低枠に満たないときの差額の扱い。 |
方式を組み合わせる場合も、料金表では項目ごとに分けて書きます。
まず区別したいのは、年間の「上限回数」と「最低回数」です。上限は、事業者が提供できる枠の限度で、それを超える分は追加の契約や別料金にします。最低回数(最低利用枠)は、導入企業が使っても使わなくても支払う回数で、事業者から見れば、スタッフの稼働を確保するための最低保証です。二つを一つの数字で書くと、導入企業は「年間で最大この回数まで使える」と読み、事業者は「この回数分は支払ってもらう」と読んで、食い違います。
最低利用枠に満たなかった場合の差額には、書き方が二つあります。一つは違約金として定める方法です。当事者は債務の不履行について損害賠償の額を予定でき(民法420条1項)、違約金は賠償額の予定と推定されます(同条3項)。事業者間の契約には消費者契約法9条の「平均的な損害」の上限はかかりませんが、額が著しく過大であれば、公序良俗(民法90条)に反するとされるおそれが残ります。もう一つは、差額を「枠の確保の対価」(最低保証料)として料金の構造に組み込む方法です。スタッフの稼働と移動の時間を確保した対価だと説明でき、導入企業の側でも予算に載せやすくなります。
チケット制では、最低購入枚数、有効期限、期限内に使えなかった理由が事業者の側にあるとき(枠が取れなかった、実施できなかった)の扱い、部署や拠点をまたぐ融通、追加購入のときの単価を決めます。有効期限は契約期間の満了と連動させる方が、請求と精算の時期が揃います。
交通費は、算定の方法を固定します。たとえば、事業者の拠点から実施場所までの距離や所要時間を区分に分け、区分ごとの額を料金表に置く方法、定額にする方法、実費にする方法があり、どれを選んでも、起点と区分の基準を書いておくことが、見積りと請求の食い違いを防ぎます。実施場所が複数にまたがるとき、事業者の拠点が移転して区分が変わるときは、事前に通知して額を見直す旨を書きます。実費精算にするなら、上限と、領収書などの根拠資料の示し方を決めます。
請求書は、料金表の項目と一致させます。施術料、最低保証料、交通費を別の行に分け、税込か税別かを料金表と請求書の双方で明記します。期中に追加で実施した分も別の行にします。支払期日と、振込手数料をどちらが負担するかも、請求書の様式とあわせて決めておきます。
書き方の例(一般的な例) 料金の書き方
年間の回数
理由上限と最低は別の概念です。導入企業の担当者が社内で回数を説明するときにも、数字が二つに分かれていると説明しやすくなります。
交通費
理由起点が書かれていないと、見積りと請求で額が食い違い、導入企業が請求の根拠を説明できなくなります。
請求書
理由項目が一致していれば、導入企業の経理は請求書だけで照合できます。
導入企業の担当者は、スタッフに直接指示しない:窓口と要望の経路
導入企業の担当者がスタッフに業務を直接指示しない形にすべき理由と、責任分担の全体像は事故・保険と出張・法人向けサービスで整理しています。ここでは、契約書に何を書いておけば現場で守られるかを考えます。
導入企業の担当者は、親切心から「この方は肩を重点的にお願いします」「次の予約が空いたので、もう一人お願いできますか」「少し延長してください」と、スタッフに直接頼みがちです。これが日常になると、事業者の指示を介さずに、導入企業がスタッフの働き方を決める形になります。労働者派遣法は、労働者派遣を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義しています(同法2条1号)。スタッフが事業者に雇用されているのに、実際の業務を導入企業が指揮命令しているなら、委託ではなく労働者派遣と評価されるおそれがあります。スタッフが個人の業務委託の場合の問題は業務委託と労働者性で扱っています。
| 場面 | 導入企業が直接伝えてよいこと | 事業者の責任者を通すこと |
|---|---|---|
| 実施の準備 | 会議室の場所、入退室の手順、使える時間帯、駐車場所など、施設についての案内。 | 配置の変更、必要な器具や人数の依頼。 |
| 当日の時間 | 従業員の業務の都合で開始が遅れるという事情の連絡。 | 実施時間の延長や短縮、順番の入れ替えの依頼。 |
| 施術の内容 | 従業員が自分の体調をスタッフに直接伝えること。 | 導入企業からの施術の方法、部位、メニューの指定。 |
| 人員 | スタッフの氏名と人数の確認。 | 担当者の指名、交代、増員の依頼。 |
| 苦情と要望 | 受けた苦情を責任者に連絡すること。 | 改善の依頼、スタッフに対する注意の要望。 |
線引きのイメージです。右の欄は、すべて責任者に伝えます。
条文例
窓口と要望の経路(条文例)
1乙は、本サービスの責任者(以下「責任者」という。)を定め、甲に通知する。責任者を変更するときも同様とする。
2乙のスタッフに対する業務の遂行方法の指示、勤務時間の管理及び配置は、乙が自ら行う。
3甲は、本サービスに関する要望及び苦情を責任者に対して行うものとし、乙のスタッフに直接指示してはならない。ただし、実施場所の利用上の案内、入退室の手続その他の施設の管理に関する案内は、この限りでない。
4責任者は、前項の要望を受けたときは、必要な対応を行い、その結果を甲に連絡する。
責任者の連絡先、連絡の手段、返答の期限、緊急時の連絡先は、別紙に書いておきます。
実施場所の条件を満たさないときは実施しない:誰が判断し、対価はどうなるか
出張施術は、実施する場所が導入企業の側にあります。事業者がどれだけ準備しても、場所が整っていなければ安全に実施できません。条件は、料金表と同じように、別紙の「実施場所の条件」にして、事前の下見や写真で確認します。
- スペース:施術台と動線が確保できる広さがあるか。
- プライバシー:外から見えない、扉を閉められる、他の従業員が出入りしない。
- 床と環境:床の状態、照明、電源、室温、音。
- 緊急時の備え:AEDの設置場所と緊急連絡先を、実施前に事業者が確認できるか。
- 立会い:導入企業の担当者が、建物の中で緊急時に対応できる位置にいるか。
- 搬入と保管:荷物の搬入経路と、実施中の保管場所。
条件を満たさないと事業者が判断したときは実施しない、と書くことは、契約の中心的な安全の定めです。誰が、いつ、どの基準で判断するのかを書いておかないと、当日の現場で担当者どうしが議論することになります。判断の基準は別紙で示し、判断するのは事業者の責任者又は現地のスタッフとして、実施しなかった理由を記録して導入企業に連絡する流れにします。
実施しなかった予約の対価は、原因によって分けます。債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒めません(民法536条2項)。もっとも、何が導入企業の「責めに帰すべき事由」にあたるかは争いになりやすいため、場所を整える責任が誰にあるかと、整わなかったときの対価の扱い(全額、一定割合、振替)を、契約で先に決めておきます。
実施できなかったときの扱いの順序(例)
実施できない原因は、導入企業が事前に約束した準備(場所の確保、立会者の配置など)が行われなかったことですか。
はい契約で定めた対価(全額、一定割合、日程の組み直しのいずれか)を請求できる。
いいえ → 次へ
原因は、天災や建物の事情など、どちらの責任でもない事由ですか。
はい実施しない。回数に含めず日程を組み直す。事業者が負担した移動の実費の扱いは、契約で先に決めた内容による。
いいえ → 次へ
原因は、スタッフの体調や機材の不備など、事業者の側にありますか。
はい実施しない。回数に含めず、日程の組み直しの費用は事業者が負担する。
いいえ → 次へ
いずれにも当たらず、安全上の条件も満たしていれば、通常どおり実施します。
条文例
実施場所の条件と実施しない場合(条文例)
1甲は、別紙に定める条件を満たす実施場所を、予約された日時に使用できる状態で確保する。
2乙は、実施の前後に、実施場所が前項の条件を満たしているかを確認する。乙は、安全上の理由から条件を満たしていないと判断したときは、その予約の全部又は一部を実施しないことができる。この場合、乙は、実施しなかった理由を記録して甲に連絡する。
3前項により実施しなかった場合で、条件を満たさない原因が甲にあるときは、別紙に定める割合の対価を請求できる。原因が乙にあるとき又は甲乙のいずれにもないときは、その予約を回数に含めず、日程を組み直す。
期間、自動更新、更新拒絶、中途解約
福利厚生は年度単位で予算を組みます。事業者の側も、年間のスタッフの稼働を確保するため、年間の契約に自動更新を組み合わせるのが一般的です。自動更新で揉める原因は、更新を断る期限を導入企業が見逃すこと、更新後の条件を事業者が通知していないこと、期の途中で回数枠が増減して残りの扱いが決まっていないことです。
- 更新拒絶の通知期限:期間満了の一定期間前までと、日付で数えられる形にする。
- 通知の方法と宛先:書面か電子メールか、誰宛てか。
- 更新後の期間と料金:同じ条件で更新するのか、料金を改定するのか。改定するなら、事業者が通知する期限。
- 年間回数・チケットの残り:更新時に繰り越すか(上限を設けるか)、失効させるか。
- 事業者側の更新拒絶:スタッフの確保の都合があるため、事業者からの更新拒絶の通知期限も書く。
中途解約については、民法の原則を確認しておきます。施術の提供を、法律行為でない事務の委託(準委任。民法656条)と整理するなら、各当事者はいつでも解除でき(同法651条1項)、相手方に不利な時期に解除したときは損害を賠償する必要があります(同条2項1号)。つまり、民法の原則のままでは、導入企業は年度の途中でも解約でき、事業者は、解約が不利な時期にあたるとして損害を請求するには、その損害を自分で立証することになります。年間の契約として拘束したいなら、契約書で、中途解約を認めるのか、認めるなら予告の期間と、残り期間の対価やチケットの残りの精算を、自分で書く必要があります。
契約条件の変更も、事業者間だからこそ丁寧に書きます。導入企業ごとに内容を決めて結ぶ契約書は、不特定多数を相手方とし内容が画一的な取引で使う約款(民法548条の2第1項の定型約款)とは性格が違うと考えられます。この場合、事業者が一方的に条件を変える仕組みは使いにくく、条件の変更は「変更の通知と、それに対する合意(異議がなければ更新する)」の形にしておく方が安定します。
書き方の例(一般的な例) 自動更新と未消化分
更新
理由導入企業は申出の期限と宛先が分かり、事業者は更新後の条件の通知を忘れにくくなります。
未消化分
理由期末に残った枠をめぐる争いは、請求の直前に起きるため、先に決めておく効果が大きい部分です。
ホテル客室への出張提携①:施術契約の当事者、代金の流れ、手数料
ホテルが宿泊客向けに客室での出張施術を提供したいとき、ホテルと出張の事業者の間で提携の契約を結びます。企業の福利厚生と違い、サービスを受けるのは宿泊客という個人です。宿泊客が事業者又はホテルと結ぶ施術の契約は消費者契約で、消費者契約法の規律がかかります。論点は、宿泊客が誰と施術の契約を結ぶのか、代金がどう流れるのか、客室という「ホテルが管理する場所」でどんな条件を置くのか、衛生と風紀、案内の表示です。
| 型 | 施術契約の相手 | 代金の流れ | ホテルの役割 |
|---|---|---|---|
| 紹介型 | 宿泊客と事業者が直接契約する。 | 宿泊客が事業者に直接支払い、ホテルは紹介料を受け取る。 | 案内と、客室への入室の調整。 |
| 取次・収納型 | 宿泊客と事業者が契約する。 | ホテルが宿泊料金とあわせて代金を受け取り、手数料を差し引いて事業者に送金する。 | 予約の取次と、代金の収納・送金。 |
| ホテルのサービス型 | 宿泊客とホテルが契約し、ホテルが事業者に実施を委託する。 | 宿泊客はホテルに支払い、ホテルが委託料を事業者に支払う。 | 販売の主体であり、事業者への委託者になる。 |
型を決めずに「提携」とだけ書くと、宿泊客からの苦情、事故、返金の責任がどちらにあるのか分からなくなります。
型ごとに注意点が変わります。紹介型と取次・収納型では、宿泊客に対して「誰が施術の提供者か」が分かるように、案内文と予約画面に事業者の名称を示します。収納型では、ホテルが預かった代金を事業者に引き渡す期日、キャンセルのときに返金する額と、その場合の手数料の扱いを決めます。紹介料や手数料は、割合と算定の基礎(税込か税別か、返金分を除くか)を契約で明確にし、後から一方的に引き上げたり、別の名目で差し引いたりしない定めにします。
ホテルのサービス型では、ホテルが、事業者に役務の提供を委託する側になります。その場合、ホテルと事業者の規模や形態によっては、取引の適正化に関する法律が関わり得ます。委託の相手が従業員を使用しない個人又は法人(特定受託事業者)であれば、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)の対象になり得ます。この場合、取引条件の書面又は電磁的方法による明示(同法3条)、従業員を使用するなどの特定業務委託事業者にあたるホテルについては、報酬の支払期日(役務の提供を受けた日から60日以内。同法4条1項)などの義務が生じます。また、委託する側と受ける側の資本金の額や常時使用する従業員の数によっては、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)の役務提供委託にあたり(同法2条4項、8項、9項)、支払期日(同法3条)や、責めに帰すべき理由のない代金の減額の禁止(同法5条1項3号)がかかります。どちらの法律の対象になるかは、相手が個人か法人か、従業員がいるか、資本金や従業員数がどの程度かで変わります。提携を結ぶ前に、相手の形態と規模を確認します。
紹介型や取次・収納型では、ホテルが事業者に委託しているのではなく、宿泊客が施術者と契約するので、この整理は原則として問題になりません。ただし、案内文や予約画面の作り方によっては、宿泊客から見るとホテルのサービスに見えることがあります。型は契約書で決めるだけでなく、宿泊客に見える表示と一致させます。
ヒヤリングの問いと理由 ホテルとの提携の前に確かめる問い
- 宿泊客は、施術について誰と契約しますか。ホテルですか、事業者ですか。紹介型、取次・収納型、ホテルのサービス型のどれにするかを決める問いです。
- 代金は誰が受け取り、事業者にはいつ、いくら渡りますか。収納型なら引渡しの期日と、返金・キャンセルのときの計算を決めます。
- 手数料の割合と算定の基礎は何ですか。税込か税別かを統一していますか。算定の基礎が曖昧だと、請求のたびに食い違います。
- 提携の相手は、個人ですか、法人ですか。従業員を使用していますか。ホテルのサービス型では、相手の形態によってかかる法律が変わります。
- ホテルが他の施術者とも提携できますか。独占か非独占かで、事業者の準備と投資が変わります。
ホテル客室への出張提携②:客室での条件、衛生と風紀、「マッサージ」の表示、そして起きがちなこと
客室は、宿泊客の私的な空間であり、同時にホテルが管理する施設です。そこに事業者のスタッフが入って施術をするので、入室の手順から決めます。宿泊客が予約したことと在室していること、施術を受けることへの同意を、入室の前に確認する手順を置くと、宿泊客に対しても、ホテルの従業員に対しても説明できます。名札などによる身分の確認、同性の施術者を希望する場合の対応、施術中の扉の扱い、ホテルの従業員が同行するかどうかも、ホテルの運用に合わせて決めます。
条文例
客室での出張施術(提携契約の条文例)
1乙(事業者)は、客室での施術にあたり、甲(ホテル)が定める入室の手順に従い、予約を確定した宿泊客が在室していること及び施術を受けることに同意していることを確認したうえで入室する。
2乙は、客室の設備及び備品を施術に必要な範囲でのみ使用し、汚損又は破損させたときは、速やかに甲に報告する。
3乙及び乙のスタッフは、施術以外の接客、性的な言動、宿泊客との連絡先の交換、客室外での勧誘その他宿泊客の安全及び甲の信用を害する行為をしてはならない。
4甲又は乙は、前項に違反する事実があるときは、直ちに客室での施術の提供を停止することができる。
入室の手順と禁止事項を、停止の権限とあわせて書いた例です。
衛生の面では、手指の消毒、リネンの交換又は使い捨てのシーツの使用、使用した器具の消毒、体調不良のスタッフの施術の中止を、ホテルの基準に合わせて決めます。客室のリネンやタオルを使えるか、スタッフが持ち込む品、ごみの持ち帰り、深夜帯の施術の制限、音も、客室ならではの決め事です。汚損や破損があったときの報告と負担の分担も、あらかじめ書いておきます。
風紀に関する禁止事項は、詳しく書くほどホテルの信用を守れます。施術以外の接客、性的な言動、宿泊客との連絡先の交換、客室外での私的な勧誘、他の宿泊客への営業、客室内での撮影を禁止し、違反があったときの即時の停止と提携の解除を定めます。ホテルの従業員が事業者のサービスを「紹介」するとき、施術の効果を説明しすぎないための社内の案内も、あわせて整えます。
案内の表示では、「マッサージ」の言葉に注意します。あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅうは、医師以外の者が業とするには免許が必要です(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律1条)。そのうえで、あん摩業、マッサージ業、指圧業、はり業、きゅう業又はこれらの施術所については、「何人も」、定められた事項以外の広告をしてはならず、施術者の技能、施術方法又は経歴にわたる内容を広告してはなりません(同法7条1項、2項)。ホテルが客室案内やメニュー表に書く文言も、この広告の規制の対象になり得ます。免許のない手技を「マッサージ」と案内すれば、免許が必要な業務をしているかのような表示にもなります。ホテルが作る案内文は、事業者が事前に確認し、使ってよい名称の一覧を別紙にして、変更するときはあらかじめ事業者の承諾を得る定めにします(整体・ストレッチ・コンディショニングと医業類似行為)。
宿泊客の情報にも気をつけます。事業者は、施術に必要な範囲で氏名と部屋番号を受け取りますが、問診で得た体調の情報はホテルに渡さない形にします。提携を終了するときの扱いも、あらかじめ書きます。終了の時点で確定している予約をどうするか、案内物や名称、ロゴの使用をいつまでに止めるか、宿泊客の情報の削除をどうするかです。
よくあるご質問
企業向けの出張施術の契約に、クーリング・オフや消費者契約法は適用されますか?
導入企業との契約には、どちらも適用されません。導入企業が営業のために結ぶ役務提供契約は、特定商取引法26条1項1号により訪問販売などの規律の対象外です。また、消費者契約法の対象は消費者と事業者の契約なので、事業者どうしの契約には適用されません。ただし、従業員が自己負担分を事業者に直接支払うなど、個人との契約ができる部分は別に考えます。
年間の回数の「上限」と「最低回数」は、どう違いますか?
上限は、事業者が提供できる枠の限度です。最低回数は、導入企業が使っても使わなくても支払う回数で、事業者のスタッフの稼働を確保するための最低保証にあたります。一つの数字で書くと読み方が食い違うため、二つの項目に分け、最低回数に満たない場合の差額の計算も書いておきます。
導入企業の担当者が、スタッフに施術のやり方を直接頼んでもよいですか?
業務の遂行方法の指示、勤務時間の管理、配置は、事業者が自ら行う形にします。導入企業の担当者は、実施場所の利用上の案内や入退室の手続にとどめ、施術の内容や人員の要望は事業者の責任者を通します。導入企業が直接指示する運用は、労働者派遣と請負の区分の基準との関係で問題になり得ます。
自動更新の契約で、更新を断る期限を過ぎてしまったらどうなりますか?
契約書の定めどおり、次の期間が始まります。期限と宛先、通知の方法を日付で分かる形にしておき、事業者の側も、更新後の料金と回数枠を満了の一定期間前までに導入企業へ通知するようにすると、見逃しを防げます。
ホテルの客室で出張施術を提供するとき、「マッサージ」と案内してよいですか?
施術者が免許を持つかどうかと、広告の規制の両面で注意が必要です。免許のない手技を「マッサージ」と案内すると、免許が必要な業務のように見える表示になります。免許のある施術者の場合も、あん摩マツサージ指圧師等に関する法律7条により、広告できる事項は限られます。案内文は、事業者が事前に確認します。
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本ページは一般的な情報提供です。法令の解釈や行政の運用は、個別の事情や今後の改正・通知によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 国民生活センター / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 個人情報保護委員会