このページの要点
- 特定継続的役務は施行令別表第四の7役務に限られ、トレーニング・ピラティスの指導や整体の全身調整は含まれない(特定商取引法41条2項、施行令25条)。
- 痩身・体型を整えるための施術を1か月を超え5万円を超えて売る部分は、エステの項に当たり得る。トレーニングと施術は別の契約・書面にする。
- 任意のクーリング・オフや中途解約は「適用の有無にかかわらず」と断り、法定書面の体裁を使わず本文で完結させる。
- 指定外でも、訪問販売・通信販売の規律と、消費者契約法8条・9条・10条・4条の審査はかかる。
結論:トレーニング・ピラティス・整体は、それだけでは指定の7役務に入らない
「パーソナルジムの3か月コースは高額だから、エステと同じように特定商取引法の書面とクーリング・オフが必要なのでは」というご質問は、ジムや整体院を立ち上げる方からよく寄せられます。結論から言うと、2026年10月15日時点で、パーソナルトレーニング、ピラティス・ヨガの指導、整体・リラクゼーションの手技は、それ自体としては特定商取引法の「特定継続的役務」に指定されていません。
特定継続的役務提供(一定の期間を超えて継続的に提供され、一定の金額を超える役務の契約で、法律が書面の交付やクーリング・オフを義務付けているもの)は、役務の種類を政令で一つずつ指定する仕組みです。特定商取引法41条2項は、特定継続的役務を「身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他のその者の心身又は身上に関する目的を実現させることをもつて誘引が行われるもの」で、かつ「目的が実現するかどうかが確実でないもの」のうち、政令で定めるものとしています。そして同法施行令25条は、その役務を施行令別表第四の第一欄に掲げる役務に限っています。
つまり、「体が引き締まる」「姿勢が良くなる」と誘う点でエステや語学教室と性質が似ていても、別表第四に書かれていない役務であれば、期間が長く金額が高くても、特定継続的役務提供の規制(契約前の概要書面・契約後の契約書面の交付〔同法42条〕、法定のクーリング・オフ〔同法48条〕、法定の中途解約と精算額の上限〔同法49条〕)はかかりません。判定は「高いかどうか」ではなく、まず役務の種類が指定に当たるかから始めます。
指定7役務への当てはめを先に行う
施行令別表第四に掲げられているのは次の7つです。期間の要件は別表第四の第二欄、金額の要件は施行令24条2項(5万円)で定められています。どちらも「超える」ことが要件で、期間がちょうど1か月・2か月、金額がちょうど5万円の契約は含みません。
| 別表第四の役務 | 期間の要件 | ジム・整体・ピラティスとの関係 |
|---|---|---|
| 一 人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術(エステティック) | 1か月を超える | トレーニングの指導そのものは「施術」ではない。ただし痩身機器・痩身の手技などの施術をコースに入れると、その部分が当たり得る |
| 二 美容を目的とする医学的処置・手術その他の治療(美容医療) | 1か月を超える | 医療機関の役務。ジム・整体院が行うものではない |
| 三 語学の教授 | 2か月を超える | 関係しない |
| 四 家庭教師等(入学試験対策・学校教育の補習のための学力の教授で、事業者が用意する場所以外で提供されるもの) | 2か月を超える | 関係しない |
| 五 学習塾 | 2か月を超える | 関係しない |
| 六 パソコン・ワープロの操作に関する知識・技術の教授 | 2か月を超える | 関係しない |
| 七 結婚を希望する者への異性の紹介 | 2か月を超える | 関係しない |
金額の要件は7役務とも「5万円を超える」(施行令24条2項)。期間と金額の両方を満たし、かつ役務が7つのどれかに当たる場合に限って、特定継続的役務提供になります。
当てはめで迷うのは一の項(エステティック)だけです。一の項は「施術を行うこと」と書かれています。事業者が手や機器で体に施すのが施術で、お客様が自分で体を動かすトレーニングやピラティスの指導は、文言上これとは性質が異なります。整体の「全身の調整」「肩こりの緩和」も、皮膚の美化・体型・体重を目的とするものでなければ一の項には入りません。
反対に、同じジムや整体院でも、美容・痩身を目的とする施術をメニューに入れると話が変わります。整体の「骨盤矯正」「姿勢矯正」を体型を整える目的やダイエットの手段として打ち出し、1か月を超える期間・5万円を超える金額で売るなら、エステの項に当たるかを検討する必要が出てきます。名称ではなく、何を目的に、何をして、どう誘っているかで判断されます。
特定継続的役務提供に当たるかの確認の順序
契約の中に、事業者が手や機器で体に施す痩身・体型・美肌の施術(エステの項)や、美容医療が含まれているか。
はい含まれている部分について、次の期間と金額の要件を確認する。トレーニング・ピラティスの指導、肩こりの緩和などの整体だけなら、ここで「指定外」となる。
いいえ → 次へ
その施術の提供期間は1か月を超えるか。
はい超えるなら金額の確認へ。1か月以内(ちょうど1か月を含む)なら特定継続的役務提供には当たらない。
いいえ → 次へ
その施術の対価として5万円を超える金額を支払う約束か。
はい超えるなら特定継続的役務提供。概要書面・契約書面、クーリング・オフ、中途解約の規律がかかる。
いいえ → 次へ
指定外となった部分も、売り方(訪問販売・電話勧誘販売・通信販売)の規律と、消費者契約法の審査は受けます。高額であること自体は、判定の入口ではありません。
「美容」目的の施術を併売すると、その部分はエステの項に当たり得る
パーソナルトレーニングと痩身機器(脂肪冷却)を一つの店で提供する依頼者の顧客向け契約書を整えた案件があります。依頼者原案は、トレーニング(60分単価・10回券・有効期限3か月)と、機器による施術(部位ごとの単価、一定期間の通い放題を分割払いで支払うプラン)を一つの契約書にまとめ、料金表も本文に並べていました。
機器による脂肪の冷却は、別表第四一の項の「体型を整え、又は体重を減ずるための施術」に当たり得ます。そうすると、施術のコースを1か月を超える期間・5万円を超える金額で契約する部分には、エステとしての書面の交付、クーリング・オフ、中途解約の規律がかかり得ることになります(機器の性質によっては医師法の問題が先に立つこともあります)。また、施術の部分がエステの項に当たる場合、店がその施術とあわせて販売するサプリメントなどの健康食品、化粧品、下着、美顔器などの政令で定める商品は関連商品(同法48条2項、施行令29条・別表第五)として、施術の契約とあわせてクーリング・オフや中途解約の対象になり得ます(同法48条2項・49条5項)。一方、トレーニングの部分は指定外です。一つの書面に両方が入っていると、どこまでが法定の規制の対象で、どこからが契約自由の範囲なのかが、お客様にも店にも分かりにくくなります。
事務所の書類での改訂 トレーニングと痩身機器を同じ店で売る契約書
料金とコースの特定
理由規制がかかり得るメニューとかからないメニューを同じ書面に並べるなら、少なくとも「この契約で何を買ったか」を契約ごとに特定しておく必要があります。
サービスの説明
理由効果や安全性を印象づける言葉は、表示や医療との関係で別の説明を求められるきっかけになります(効果表示のページ)。
この種の店では、トレーニングの契約と施術の契約を別の契約・別の書面にしておくと、どちらに何の規制がかかるかを切り分けやすくなります。国民生活センターが2026年10月7日に公表したパーソナルトレーニングの契約トラブルの資料も、副題で「痩身エステ等、関連商品・サービスも勧誘されて高額に!?」と注意を促しており、トレーニングに別のサービスを組み合わせて売る場面が相談の中心の一つになっています。
指定外の役務に「法律に基づくクーリング・オフ」と書いた原案
逆方向の取り違えもあります。手技と機器を使う整体の6か月・12回のプログラム(40万円台)の契約書について、依頼者原案は第9条で「本契約は、特定商取引法第48条第1項に基づく『特定継続的役務提供』に該当することから」としてクーリング・オフを定め、末尾に「特定商取引法施行規則に基づく書面交付義務を履行するもの」とする「重要なお知らせ」を付けていました。
プログラムの目的は、身体の歪みの調整・姿勢の矯正・肩こりなどの緩和で、体型を整える・体重を減らすための施術として売っているものではありません。そうであれば別表第四には当たらず、法定の特定継続的役務提供ではありません。法定の制度でないものを「法律に基づく」と書くと、根拠条文の書き間違いにとどまらず、お客様の側から「法定の書面の要件を満たしていないので、クーリング・オフの期間はまだ進んでいない」と主張する足場を与えかねません。
もう一つの問題は、二重管理です。この原案では、本文第8条の返金の計算式(消化済みの回数分の対価を差し引き、さらに差額の一定割合を解約手数料とする式)と、末尾の「重要なお知らせ」の計算式(未消化分の一定割合か一定額の低い方)が食い違っていました。法定書面の型だけを借りると、本文と書面の二か所に返金のルールが書かれ、どちらが正しいのか分からなくなりやすいのです。
任意のクーリング・オフ・中途解約は、任意の制度として書く
指定外の役務に、店が自ら進んでクーリング・オフや中途解約の精算を設けることは自由です。お客様に有利な特約だからです。その場合は、法律上の制度と誤解されないよう「特定商取引法の適用の有無にかかわらず」と断り、法定書面の体裁を使わずに、本文の一か所で完結させます。
条文例
利用契約書 第◯条(ご契約の解除)
1当店は、特定商取引に関する法律の適用の有無にかかわらず、お客様がこの契約書を受け取った日から起算して8日を経過するまでの間に、書面又は電子メールにより申し出たときは、この契約を解除することに応じます。この場合、当店はお支払いいただいた金額の全額を返金し、既に受けたセッションの対価や解約手数料は請求しません。
2前項の期間が経過した後も、お客様は、書面又は電子メールにより申し出て、この契約を将来に向かって解除することができます。この場合の返金額は、第◯条(返金の計算)に定める計算式によります。
3前二項の解除の申出は、当店が定める様式による必要はなく、お客様の氏名とご契約コース名が分かるものであれば足ります。
法定の制度と区別するため、条文の中で「適用の有無にかかわらず」と明記し、返金の計算式は一つの条にまとめます。概要書面・契約書面の体裁(赤枠・赤字など)は使いません。
なお、整体の回数券(6回券・10回券)を扱った別の案件では、10回券が5万円を超え、有効期限も2か月を超えるものの、整体の全身調整は別表第四に当たらないため、特定継続的役務提供の法定書面は不要という整理で作成し、そのうえで返金・キャンセル・施術をお断りする場合・効果の個人差・体調の変化を、消費者契約法を前提に契約書で定めました(回数券・月謝の返金ルール、けが・同意書と免責)。
指定外でもかかる規制:売り方と、消費者契約法
指定外だから何でも書けるわけではありません。むしろ、法定書面や法定の精算上限がない分、契約書の中身そのものが直接審査されます。ジムの契約関係は大きく四つに分かれ、特定継続的役務提供の問題が出るのはそのうちの一つだけです。
ジム・スタジオ・整体院をめぐる四つの契約関係
店(運営者)とお客様
消費者契約法・特定商取引法
特定継続的役務提供の当てはめはこの関係だけ。指定外でも、訪問販売・電話勧誘販売・通信販売の規律と、消費者契約法の不当条項・不当勧誘の規律がかかる。
FC本部と加盟店
民法・独占禁止法
事業者どうしの契約で、事業のために加盟する者には消費者契約法は原則として適用されない。
FC本部の詳細レビューの冒頭で示した整理を、一般化して図にしたものです。
- 訪問販売・電話勧誘販売:特定商取引法の訪問販売・電話勧誘販売は「役務の提供」一般を対象にしています(同法2条1項・3項)。出張トレーナーがお客様の自宅で契約を取れば、役務の種類を問わず訪問販売の書面とクーリング・オフ(同法9条。書面を受け取った日から8日)の対象になり得ます。また、施行令別表第一は「保養のための施設又はスポーツ施設を利用する権利」を特定権利に挙げています。
- 通信販売:ウェブサイトやSNSからの申込みを受ける場合は、広告に対価・支払の時期と方法・役務の提供時期・解除に関する事項などを表示する義務があります(同法11条)。
- 消費者契約法:免責条項(8条)、解除に伴う違約金の「平均的な損害」(9条1項1号)、消費者の利益を一方的に害する条項(10条)、不当な勧誘による取消し(4条)が、ジムの契約書と勧誘を直接審査します。
FC本部の契約書をレビューした案件でも、事務所は「通常のジム利用が当然に指定された特定継続的役務に含まれるわけではない。エステの実態や訪問・電話勧誘、オンライン申込みによる別の規制を確認する」「FCという名称だけで適用を否定しない」と指摘しました。本部が加盟店に顧客向け規約のひな形を配る場合も、加盟店の売り方(訪問・電話での勧誘、痩身施術の併売)によってかかる規制が変わることを前提に設計します(フランチャイズ契約)。
相談件数の推移と、今後の指定の可能性
国民生活センターの2026年10月7日の公表資料によると、パーソナルトレーニングに関する相談件数は、2021年度495件、2022年度722件、2023年度861件、2024年度885件、2025年度1,457件と増え続け、2026年度も8月31日までで537件に上っています。相談の内容は、無料体験の後の長時間のカウンセリング、高額なプランの勧誘、サプリメントやエステなど関連する契約の勧誘、途中で解約すると割引が消えて入会金を請求される、解約の手続が進まない、予約が取れない、といったものです。
同じ資料には、特定継続的役務への政令指定を検討しているという記述はありません。過去には美容医療が政令の改正で追加された例があり、指定の範囲は将来変わり得ますが、現時点で指定されていない役務を「指定されるはず」として法定書面の型に合わせる必要はありません。むしろ、相談の内容そのもの(勧誘・解約・予約)に契約書と運用で答えておくことが、指定の有無にかかわらず紛争を減らす近道です(体験・入会の勧誘、キャンセル・休会・退会)。
ヒヤリングの問いと理由 売り方と規制の確認
- トレーニングのほかに、機器や手技による痩身・美容の施術をメニューに入れていますか。入れていれば、その部分が別表第四一の項に当たるかを検討し、トレーニングとは別の契約・書面にするかを決めます。
- 契約はどこで結びますか(店舗・お客様の自宅や勤務先・オンライン)。店舗外なら訪問販売、電話での勧誘から郵便等で申し込ませるなら電話勧誘販売、ネットなら通信販売の規律を確認します。
- コースの期間と総額はどれくらいですか。施術を含む場合、1か月を超え5万円を超えるかで、エステとしての規律の要否が分かれます。
- 任意のクーリング・オフや中途解約の精算を設けたいですか。設けるなら任意の制度として本文で完結させ、返金の計算式を一か所にまとめます。
よくあるご質問
パーソナルジムの3か月・20万円のコースに、特定商取引法のクーリング・オフはありますか?
パーソナルトレーニングは特定継続的役務に指定されていないため、店舗で契約したトレーニングだけのコースであれば、特定継続的役務提供としてのクーリング・オフはありません。ただし、お客様の自宅など店舗外で契約した場合の訪問販売、痩身の施術を含むコースのエステとしての規律など、別の規制がかかる場面はあります。
整体の10回券(5万円超・有効期限11か月)に、概要書面は必要ですか?
整体の全身調整や肩こりの緩和は施行令別表第四に当たらないため、期間と金額が要件を超えていても、特定継続的役務提供の概要書面・契約書面は不要です。返金やキャンセルのルールは、消費者契約法を前提に契約書で定めます。
ピラティスの月額会員も特定継続的役務提供に当たりますか?
ピラティス・ヨガの指導は指定された7つの役務のどれにも当たらないため、月額制でも回数制でも特定継続的役務提供には当たりません。ネット申込みなら通信販売の表示義務、会員規約には消費者契約法の審査がかかります。
パーソナルトレーニングと痩身機器をセットで売る場合、何に注意すればよいですか?
機器による痩身の施術は「体型を整え、又は体重を減ずるための施術」に当たり得るため、1か月を超え5万円を超えて契約する部分にはエステとしての規律がかかり得ます。トレーニングと施術を別の契約・別の書面にして、契約ごとに何を買ったかを特定しておくと切り分けやすくなります。
任意でクーリング・オフを設けたい場合、どう書けばよいですか?
「特定商取引法の適用の有無にかかわらず」と断ったうえで、期間・申出の方法・返金額を本文の一つの条にまとめます。法定書面の体裁や「法律に基づく」という表現は使わず、返金の計算式を本文と別の書面に二重に書かないようにします。
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