このページの要点
- 認証手段は本人専用とし、貸し借り・共有・共連れを具体的に禁止する。退会時に権限を無効にする運営者の義務も書く。
- 防犯カメラは、撮る場所・撮らない場所、常時の監視の有無、保存、提供を決め、掲示・規約・ポリシーの内容をそろえる。
- 緊急時は実際に動ける経路を書き、命に関わるときは先に119番通報とする。AEDを置くなら置き場所と点検を決める。
- 免責は全部免除にせず、一部免除なら故意又は重大な過失を除くことをその一文の中に書く(消費者契約法8条3項)。
結論:無人の24時間ジムの規約は、「人がいない時間に何が起きるか」から逆算して書く
スタッフが常駐しない24時間営業のジムで、利用規約は何を受け持つのか。結論から言うと、有人のジムでは受付のスタッフが声掛けや目視で済ませていることを、無人では仕組みと規約が代わりに担うことになります。そのため規約は、次の三つを決めて書き分けると崩れにくくなります。
- 誰が、どの手段で、いつ入れるか(入館の権限と、その貸し借り・共有の扱い)
- 人がいない時間に、事故や体調不良が起きたとき、誰が何をするか(通報、連絡、AED、事後の記録)
- 運営者は何を見ていて、何を見ていないのか(防犯カメラの範囲、リアルタイムで見ているか、録画を後から確認するだけか)
この三つを決めないまま、規約の末尾に「施設内の事故について当社は一切責任を負いません」と置いても、会員が個人(消費者)である限り、その条項は消費者契約法8条の審査を受けます。個人は「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合」を除き消費者であり(同法2条1項)、ジムの会員の大半はこれに当たります。免責の書き方の一般論は同意書と免責条項のページ、規約全体の条の並べ方や休会・除名・変更・管轄は利用規約の作り方のページ、保険の考え方は事故と保険のページで扱っています。このページは、それらで扱っていない無人運営に固有の論点、つまり入退館、不正入館、防犯カメラ、緊急時とAED、熱中症、器具の誤使用に絞ります。
入退館は「誰が・いつ・どの手段で入れるか」を契約の内容にする
無人ジムの入口は、認証手段が事実上の「会員であることの証明」になります。認証手段が他人の手に渡れば、会員でない人が自由に出入りでき、その間の盗難や事故は、運営者と他の会員の双方にとって重い問題になります。規約には、認証手段の扱いを具体的に書きます。
認証手段は本人専用であることを、貸し借りの形ごとに書く
実務で多いのは、「会員資格は他人に譲渡・貸与できない」と一般的に書くだけで、暗証番号の共有、カードの貸し借り、家族や友人への入館の依頼といった具体的な行為が禁止事項として挙がっていない書き方です。禁止の対象を、認証手段の種類ごとに例示しておくと、違反を見つけたときの根拠が明確になります。
ここで見落とされやすいのが共連れです。会員が1人で認証し、後ろから別の人が一緒に入る行為で、認証手段を貸し借りしなくても起きます。同伴者の入館を認める運営(体験の同伴、家族会員)なのか、認めない運営なのかで、規約の書き方が変わります。認めるなら事前登録と同伴者の署名(体験者向けの手続は体験・入会のページ)を条件にし、認めないなら「1回の認証で入館できるのは認証した本人のみ」と書きます。
認証手段の管理責任は、会員の責めに帰すべき範囲に限る
よく見られる条項に、「入館のための暗証番号その他の認証情報の管理は会員が自己の責任で行い、管理不十分によりセキュリティ事故が発生した場合、会員はその一切の損害について責任を負う」という書き方があります。貸し借りを防ぐ趣旨は理解できますが、このままでは損害の範囲が際限なく広がるうえ、運営者の側に原因がある場合まで会員に負わせる読み方もできてしまいます。債務不履行の損害賠償の範囲は、民法416条1項が「通常生ずべき損害」を原則とし、特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を予見すべきであったときに限って請求できる(同条2項)としています。会員が消費者の場合、これより広い責任を負わせる条項は、消費者契約法10条の審査を受け得ます。
運営者の側にも落とせない作業があります。退会した会員や、利用を停止した会員の認証手段を実際に無効にすることです。退会の手続は終わっているのに入館の権限が残っていて、退会者が入館して事故になった、という場面では、権限を消さなかった運営者の落ち度が問われます。規約には「退会・停止の効力発生日に、入館の権限を無効にする」と運営者の側の義務も書き、運用でも退会処理と権限の削除を同じ手順に結びつけます。
条文例
利用規約 第◯条(入館の権限)
1会員は、当社が会員ごとに発行する入館のための認証手段(暗証番号、カード、アプリの画面その他の手段を含む。以下「認証手段」という。)を用いて、当社が定める利用可能な時間帯に、本施設に入館することができる。
2認証手段は会員本人に専属する。会員は、認証手段を第三者に開示、貸与、譲渡、共有若しくは使用させ、又は第三者の入館のために用いてはならない。会員が認証した際に、認証していない者を同行して入館させること(以下「共連れ」という。)も同様とする。
3会員は、認証手段を紛失し、又は第三者に知られたおそれがあるときは、直ちに当社に届け出る。当社は、届出を受けたときは、速やかに当該認証手段を停止する。
4会員が前二項に違反したことにより当社又は第三者に損害が生じたときは、会員は、通常生ずべき損害を賠償する。ただし、当社の認証手段の停止の遅れその他当社の責めに帰すべき事由により生じた損害は、この限りでない。
5当社は、会員が退会し、又は利用停止の措置を受けたときは、その効力が生じた日に、当該会員の認証手段を無効にする。
会員の義務と運営者の義務を対にした例です。損害は通常生ずべき損害に限っています。
「24時間」の表示と、入館できない時間帯の整合を取る
「24時間営業」と広告にあっても、点検・清掃・メンテナンスで入館できない時間帯や、会員の種別ごとに絞った時間帯がある運営があります。規約に「別に定める」とだけ書くと広告の印象との差が残るため、入館できない時間帯と理由、事前に知らせる方法を規約と広告の両方に示します。
夜間に未成年者が入館できる運営にするかは運営者が決める事項です。未成年者が法定代理人の同意なく契約したときは取り消すことができる(民法5条1項・2項)ため、申込みでは保護者の同意と署名を条件にし、夜間の出入りは地域の青少年保護育成条例などの規制も確かめて決めます。
不正入館が起きたとき、規約で何を決められるか
不正入館とは、会員でない人が入る場合と、会員が認証手段を貸して他人を入れる場合の両方を指します。前者は第三者の問題で、運営者としてできるのは、通報、防犯カメラの映像の保存、認証手段の変更といった対処です。後者は会員との契約の問題で、規約が使えます。ただし、権限を止めるだけなら一瞬でできてしまう無人運営では、措置が一方的になりやすい点に注意が要ります。
不正入館が疑われるときの措置の段階(例)
他の会員や設備の安全を直ちに害するおそれがありますか(暴力、盗難、器物損壊、居座りなど)。
はい入館の権限を直ちに停止し、必要に応じて警察に通報する。停止した理由は、後から会員に通知する。
いいえ → 次へ
認証手段の貸し借りや共連れが、入館の記録や映像で確かめられていますか。
はい会員に事実関係の確認を求め、確認が取れたときは認証手段の再発行と、以後の遵守を求める。改まらないときに権限の一時停止へ進む。
いいえ → 次へ
疑いにとどまり、事実が確かめられていませんか。
はい権限は止めず、記録を残して会員に注意を促す。入館の記録の確認の範囲と目的は、規約に書いておく。
いいえ → 次へ
安全に関わる事態と、貸し借りの確認を分けて段階を置くと、権限停止の根拠を説明しやすくなります。停止後の会費や私物の扱いは、規約に別に書きます。
この段階を置く理由は、民法の解除の考え方にあります。相手が債務を履行しない場合は、原則として相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がなければ解除できます(541条)。催告なしに直ちに解除できるのは、542条に定める場合に限られます。規約で無催告の停止や除名の事由を置くことは可能ですが、軽い違反まで同じ重さで扱うと、消費者契約法10条の審査を受け得ます。権限を一瞬で止められる技術的な手段があることと、止めてよい場面は別の問題です。
権限を止めたとき、ロッカーの私物と会費はどうなるか
会員がロッカーに私物を置いたまま利用を停止されることがあります。権限を止めて取りに入れなくするのは、財産の取り戻しを妨げる状況です。規約には、停止や退会の後に私物を受け取れる日時と方法(立会いの有無、運営者が預かって返す方法)と、受け取りがないときの段階的な扱いを書き、鍵を替えて締め出す、荷物を運び出すといった実力による解決を前提にした書き方は避けます。
会費は、停止の理由が会員の違反か運営者の事情かで分けます。消費者契約法9条1項1号は、契約の「解除に伴う」損害賠償の額の予定や違約金が、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効にする規定で、契約を続けたまま違反に金銭を科す条項は、民法420条や90条、消費者契約法10条で考えます。未使用分から所定の手数料を引いて返す算式は、返金ルールのページで整理しています。
防犯カメラは「何を撮り、何を撮らず、誰がいつ見るか」を決めて書く
無人運営では、防犯カメラが不正入館の抑止と、トラブルの事後確認の主な手段になります。ここで重要なのは、カメラがあること自体ではなく、範囲、見方、保存、提供を決めて、掲示と規約とプライバシーポリシーで同じことを言うことです。映像の扱いの全般的な考え方は、プライバシーポリシーのページと、別のガイドで扱っています。
撮影する場所と、撮影しない場所を分ける
トレーニングエリア、入口、受付、駐車場は防犯の目的で撮影する場所として説明しやすい一方、更衣室、トイレ、シャワー室、パウダールームは撮影しない場所として明示するのが基本です。更衣室の入口付近を撮る場合も、扉が開いたときに内部が映らない向きにするなど、設置の向きに配慮します。トレーニングエリアのうちストレッチ用のマットのスペースなど、着替えや肌の露出を伴うことがある場所は、撮影の可否を運営者が個別に判断します。規約と掲示に「撮影する場所」と「撮影しない場所」の両方を書くと、会員の安心につながります。
「見守り」という言葉が、運営者の責任の水準を上げることがある
広告や掲示に「24時間カメラで見守っています」と書かれることがあります。実態が録画の事後確認だけなら、会員に「何か起きれば誰かがすぐ気づく」という期待を与え、倒れても誰も気づかなかったときに「見守りを約束していた」という主張の根拠になり得ます。遠隔でスタッフが映像を見ているなら、その範囲を正確に書きます。実態より強い表現も弱い表現も避け、録画だけなら「事後の確認のために録画しており、常時の監視はしていません」と書きます。
防犯目的だけで、設置状況から目的が明らかな場合は、利用目的の通知・公表を要しないとされることがあります(個人情報保護法21条4項4号)。ただし、撮影されていることに本人が気づけない場合は掲示などの措置が望ましく、「利用により同意したものとみなす」と書くだけでは同意の事実は残りません。防犯とは別の目的(トレーニングフォームの分析、広告への利用)に使うなら、あらかじめ本人の同意が必要です(同法18条1項)。保存期間は、録画装置が自動で上書きする運営ならそう書き、固定の日数を書いて実態とずれることを避けます。
会員同士のトラブルで、他の会員の映像を見せてほしいと言われたとき
会員から「私物がなくなった」と申し出があり、映像を見せてほしいと求められる場面があります。映像には他の会員が映っており、個人データに当たる映像の第三者提供には制限があります(個人情報保護法27条1項)。運営者が事実確認のために見るにとどめ、会員への提供は原則として警察を経由する扱いにする運用が考えられます。警察の照会に応じる場合は「法令に基づく場合」(同項1号)に当たるかを確かめ、根拠と範囲を記録します。
条文例
利用規約 第◯条(防犯カメラ)
1当社は、防犯、事故及びトラブルの事後の確認並びに本規約の違反の有無の確認のため、本施設の入口、受付、トレーニングエリア及び駐車場にカメラを設置し、映像を録画する。当社は、更衣室、トイレ、シャワー室その他会員が着替え又は身支度をする場所には、カメラを設置しない。
2前項のカメラは、常時の監視を行うものではない。会員は、体調不良その他の緊急の事態が生じたときは、当社の映像の確認を待たず、自ら又は居合わせた者を通じて、第◯条(緊急時の対応)に定める措置を取る。
3当社は、録画した映像を、第1項の目的の範囲でのみ利用し、前項の目的以外の目的に利用しようとするときは、あらかじめ目的を示して会員の同意を得る。
4当社は、法令に基づく場合その他法令により許される場合を除き、録画した映像を第三者に提供しない。当社は、提供したときは、その経緯を記録する。
5録画した映像は、録画装置の記録容量の範囲で一定期間保存した後、上書きにより消去する。ただし、事故又はトラブルの確認のために必要なものは、その範囲で別に保存することがある。
常時の監視をしないこと、撮影しない場所、目的外の利用の制限、提供の記録を一つの条にまとめた例です。実際の運営(遠隔での監視の有無)に合わせて、第2項の内容を書き換えます。
体調不良が起きたとき、誰が見つけ、何をするか:緊急時の対応とAED
無人の時間帯に会員が倒れたとき、最初に気づくのは、居合わせた別の会員か、誰にも気づかれないかのどちらかです。運営者に「すぐ駆けつける」ことはできません。そこで規約と掲示が受け持つのは、居合わせた人が迷わず動けることと、運営者が実際にはできないことを約束しないことの二つです。
「緊急時は当社が対応する」と書くと、無人では履行できない約束になる
規約や掲示に、「緊急時には当社スタッフが速やかに対応します」と書かれていることがあります。スタッフが不在の時間帯にこれが実現できないなら、約束をしたことになり、できなかったときの責任の根拠になります。書くべきは、実際に動く経路です。館内に緊急連絡のための設備(通話ボタン、運営者の連絡先の掲示)があるなら、その接続先(常駐の受付なのか、運営者の携帯電話なのか、警備会社の受付なのか)、応答できる時間帯、応答がないときの代わりの手段を、そのまま書きます。そして、どの連絡手段にも「命に関わると思われるときは、先に119番通報をする」という一文を添えます。
居合わせた会員の救護について、民法698条(緊急事務管理)は、本人の身体に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をした者は、悪意又は重大な過失がなければ損害を賠償する責任を負わないと定めています。規約には、救護に協力した人に運営者が負担を求めない旨を、運営者の側の約束として書きます。
AEDを置く場合に、規約と運用で決めておくこと
AEDを置くか、どこに置くかは運営者が決める事項ですが、設置すると会員の期待が生まれます。パッドやバッテリーの期限切れ、分かりにくい置き場所、施錠された部屋の中、といった状態では、設置が安心の根拠になるだけに、使えなかったときの点検の落ち度が問われます。厚生労働省は、救命の現場に居合わせた一般の人がAEDを使うことは医師法17条に違反しない(反復継続性が認められない)という趣旨の通知を出しており、会員が使うこと自体は前提にできます。
- 置き場所を、入口と館内の見やすい位置に掲示し、鍵のかかった場所に入れない
- パッドとバッテリーの有効期限を、点検の頻度を決めて確認し、記録に残す
条文例
利用規約 第◯条(緊急時の対応)
1会員は、本施設の利用中に、自己又は他の利用者の生命又は身体に危険が生じ、又はそのおそれがあると思われるときは、直ちに119番通報をする。当社への連絡は、通報又は救護の後で足りる。
2本施設には、所定の位置にAEDを設置している。AEDの使用は、機器の案内に従って行う。当社は、AEDの使用により生じた損害について、使用した者に悪意又は重大な過失がある場合を除き、使用した者に請求しない。
3本施設の緊急連絡用の設備(通話ボタン、連絡先の掲示)の接続先及び応答できる時間帯は、館内に掲示するとおりとする。当社は、前項の設備による通話が常時できることを保証しない。
運営者が実際にできることだけを書いた例です。第2項の「請求しない」は、救護に協力した者に対する運営者の側の約束で、法律上の免責の効果を規約で定める趣旨ではありません。第3項は、実際の接続先に合わせて書き換えます。
夏の夜でも熱中症は起きる:空調・換気・体調の申告と、設備が止まったとき
熱中症は屋外だけの問題ではありません。24時間営業のジムでは、夜間でも運動で体温が上がり、さらに空調が故障したり、停電で換気が止まったりしたときに、室内で暑さが問題になります。無人の時間帯は、空調の停止に誰が気づくかが実務上の分かれ目です。
空調が止まったことに、誰が気づく仕組みか
無人では、会員が「暑いが運動中なので我慢する」と続けてしまいます。室温・湿度の異常を遠隔で知らせる仕組みの有無、空調停止時に入館を止めるか、会員に利用を控えるよう知らせる手段があるかを、運営の設計として決めます。暑さの指標を掲示に使うときは、環境省・気象庁の公表資料の定義に沿います。規約には、設備停止時に利用を控える義務と、運営者が利用を停止できる権限を書きます。
体調の自己管理は、入会時の申告と利用ごとの判断に分けて書く
入会時の申告は既往症や医師の運動制限を確認するものです(カルテと健康情報のページ)。熱中症の危険は、睡眠不足、飲酒、発熱、前日の疲労といったその日の状態で決まり、無人ではそれを確認する人がいません。規約で「体調が悪いときは利用しない」「気分が悪くなったら直ちに中止して休む」という自己管理の義務を書き、館内にも同じ掲示を置きます。
特定の病名を挙げて一律に利用を禁じる書き方は、安全に運動できる状態かを見ずに排除することになり、過剰です。基準は「安全に利用できる状態にあるか」とし、医師から運動を禁じられている場合や、飲酒・薬物の影響で正常な判断ができない状態を具体的に書きます。感染症も、体温を測る人がいない無人では、症状があるときは利用を控える自己申告の定めにとどまります。
設備が止まった期間の会費について、民法536条1項は、当事者双方の責めに帰することができない事由で債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができると定めています。「理由を問わず返還・減額しない」と一括で書くと、運営者の責めに帰すべき場合まで含み、消費者契約法8条や10条の審査を受け得ます。延長や日割りの減額など、会員が選べる扱いを書いておく方が運営にも合います。
器具の誤使用と事故:免責の書き方と、会員が壊したときの賠償
無人のジムでは、初心者がマシンの設定を誤る、重いバーベルを補助者なしで扱う、器具を本来の用途と違う使い方をする、といった場面が起きます。事故が起きたとき、運営者と会員のどちらがどこまで責任を負うかは、誤使用が会員の側の事情だったのか、運営者の側の整備や案内の問題だったのかで変わります。
運営者の責任が問われやすいのは、整備と案内の落ち度
運営者の責任は、債務不履行(民法415条)や不法行為(同法709条)として、建物や固定設備の欠陥では占有者・所有者の責任(同法717条)も問題になります。整備不良か、使用方法の掲示の不足か、点検の記録があるかが判断材料です。会員に誤使用があれば、裁判所は損害賠償の額を定めるときこれを考慮できます(同法722条2項)が、運営者の落ち度は消えません。免責条項を厚くするより、点検の頻度と記録、使用方法の掲示、故障器具への使用禁止の表示という予防の設計の方が、事故を減らし、事故後の説明にも役立ちます。
免責条項は、全部免責にも、重過失まで含めた一部免責にもしない
消費者契約法8条1項は、事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項(1号)と、債務の履行に際してされた不法行為による責任の全部を免除する条項(3号)を無効としています。さらに、事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による責任の一部を免除する条項も無効です(同項2号・4号)。「故意又は重大な過失による場合を除き、責任を負わない」という書き方は、軽い過失による責任の全部を免除するものとして、会員が消費者の場合には無効となるおそれがあります。
責任の一部を免除する(例えば賠償の範囲を通常生ずべき損害に絞る)条項は、同条3項により、事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを条項そのものに明らかにしていない場合は無効とされます。つまり、免責の例外(故意又は重大な過失の場合を除く)は、別の条ではなく、その一部免除を定める一文の中に書く必要があります。また、人の生命又は身体の侵害については、一部免除であっても会員にとって影響が大きいため、条項の対象から外しておくのが慎重な書き方です。
条文例
利用規約 第◯条(運営者の賠償責任の範囲)
1当社は、本施設の設備又は器具の整備その他本契約に基づく当社の義務の履行に関して会員に損害を与えたときは、法令に従い、その損害を賠償する。
2前項の場合において、当社は、当社、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除き、会員に生じた損害のうち、通常生ずべき損害を超えるものについては、賠償の責任を負わない。
3前項の規定は、会員の生命又は身体の侵害による損害の賠償には適用しない。
第2項は、一部免除の例外(故意又は重大な過失の場合を除く)を、一部免除を定める一文の中に置いています。第3項で、生命又は身体の侵害を一部免除の対象から外しています。持込品の盗難などの扱いは別の条に書きます。
会員が器具を壊したとき:実費を基本に、算定の方法を示す
会員の誤使用で器具が壊れたときの賠償は、規約に「一切の損害を賠償する」と書く例がありますが、会員が消費者の場合、これは民法416条の通常生ずべき損害の範囲を超えた責任を負わせる書き方として、消費者契約法10条の審査を受け得ます。算定の考え方を書いておくと、請求する側にも、される側にも分かりやすくなります。
| 場面 | 考え方 | 具体的な数字の例(説明用) |
|---|---|---|
| 修理で直る | 修理の実費(部品代、作業費、出張費)を請求する | 購入価格30万円のマシンで、ケーブルの交換に4万円かかった場合、請求は4万円 |
| 修理できず買い替える | 新品の価格そのものではなく、使用期間による価値の減少を考慮した額を目安にする | 購入価格30万円、使用4年、使える見込みの期間を8年とみなす簡易な按分なら、残りの価値は15万円が目安 |
| 通常の使用による摩耗・劣化 | 会員の責任とはしない | 使用方法を守って使っていて経年で傷んだ場合は請求しない |
| 故意・悪質な損壊 | 修理又は買い替えの額に加え、通常生ずべき損害を請求できる | 利用を停止する間の対応の費用など、損害との関係を説明できる範囲に限る |
数字は説明用の例です。実際の請求は、見積書、購入時の資料、使用期間の記録を根拠に、器具ごとに整理します。
無人ジム特有の禁止事項:外部トレーナーの持込み指導、撮影、大きな落下音
無人の時間帯には、会員が自分の顧客を連れてきて有償で指導する、といった使い方が起きます。運営者が想定していない営業活動で、事故が起きれば責任の所在が複雑になるため、他の会員や第三者に対する有償の指導、勧誘、物品の販売を禁止事項に入れます。ほかにも、他の会員が映り込む撮影・録音(フォームの確認のための自撮りを含む)、夜間の近隣への騒音になる重量器具の落下、器具の持出しと改造は、禁止事項に具体的に書いておきます。撮影については、他の会員が映らないよう配慮する場合に限って認める、といった書き方が考えられます。
よくある失敗と直し方
書き方の例(一般的な例) 無人運営の利用規約
認証手段の管理
理由運営者の側の義務(停止、無効化)と対にしないと、一方的な責任の押しつけになる。
免責
理由全部免除は無効(消費者契約法8条1項)。一部免除は、例外を明らかにしない場合は無効(同条3項)。
ヒヤリングで確認すること
無人ジムの規約は、設備と運用の実態がそのまま条文の前提になります。条文を書く前に、次の問いに答えておくと、書けないところ・約束できないところが先に見えます。
ヒヤリングの問いと理由 無人運営の規約を書く前の問い
- 無人になる時間帯は何時から何時までですか。完全な無人か、見回りや遠隔の監視はありますか。「見守り」「常時対応」といった表現が使えるかが決まる。実態以上の約束を書かない。
- 入館の認証手段は何ですか。会員ごとに異なりますか。退会時に権限を消す手順はありますか。認証手段ごとに禁止事項と管理責任の書き方が変わる。退会処理と権限の無効化を同じ手順に結びつける。
- 防犯カメラはどこにありますか。更衣室・トイレ・シャワー室が映る位置はありませんか。録画の確認は誰が、いつ行いますか。撮影する場所・しない場所、確認する人の範囲を規約と掲示に書く。
- AEDはありますか。置き場所、パッドとバッテリーの有効期限の管理は誰が行いますか。掲示と点検の記録の運用を決める。設置したことによる期待に応えられるか確認する。
- 器具の点検は誰が、どの頻度で行い、記録に残していますか。重量器具の単独利用の注意は掲示していますか。事故の際に説明できる整備の記録と、予防の運用。
答えが「決まっていない」の項目が多いほど、規約より先に運用を決める必要があります。
よくあるご質問
24時間営業の無人ジムで、利用規約に「施設内の事故は一切責任を負わない」と書いてよいですか?
会員が個人(消費者)の場合、責任の全部を免除する条項は消費者契約法8条1項で無効とされます。賠償の範囲を絞る一部免除を置くなら、故意又は重大な過失の場合を除くことを、その一文の中に書く必要があります(同条3項)。生命・身体の侵害は対象から外すのが慎重な書き方です。
暗証番号を会員が友人に教えて入館した場合、規約でどう扱えばよいですか?
認証手段は本人専用であり、第三者への開示・貸与・共有・共連れを禁止事項として具体的に書きます。違反が疑われるときは、事実の確認、是正の求め、一時停止という段階を置き、会員が負う損害は通常生ずべき損害に限ります。退会者の権限を無効にする運営者の義務も、あわせて書きます。
無人ジムに防犯カメラを付けるとき、規約に何を書けばよいですか?
目的(防犯、事故・トラブルの事後確認、規約違反の確認)、撮影する場所と撮影しない場所(更衣室・トイレ・シャワー室など)、常時の監視の有無、保存の考え方、第三者への提供の場合を書きます。入口と館内に作動中であることを掲示し、規約・掲示・プライバシーポリシーの内容をそろえます。
AEDを設置した場合、運営者はどんな責任を負いますか?
設置したこと自体が会員の期待を生むため、置き場所の分かりやすさ、パッドとバッテリーの有効期限の点検、記録が重要になります。点検の落ち度があれば、使えなかったときの責任の問題になり得ます。規約には設置の旨と、命に関わると思われるときは先に119番通報をする旨を書きます。
夏に空調が止まって利用できなかった期間の会費は、返す必要がありますか?
双方の責めに帰することができない事由で提供できなかった場合、会員は会費の支払を拒めます(民法536条1項)。「理由を問わず返還・減額しない」と一括で書くと、運営者の責めに帰すべき場合まで含み、審査を受け得ます。延長や日割りの減額など、会員が選べる扱いを書いておく方が安定します。
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本ページは一般的な情報提供です。法令の解釈や行政の運用は、個別の事情や今後の改正・通知によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は、法令の原文と官公庁の公表資料で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 国民生活センター / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 個人情報保護委員会