このページの要点
- あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅうは免許が必要(あはき法1条)。柔道整復は柔道整復師法15条、医業は医師法17条。
- 資格のない手技の施術は、人体に危害を及ぼすおそれのない方法で行うことが前提(あはき法12条、最高裁昭和35年1月27日大法廷判決)。
- 「行わないこと」は、診断・治療、施術者が免許を持たない手技、医師の指示の下のリハビリを並べて書き、求められたときの対応も書く。
- 資格のない整体院が「マッサージ」「指圧」と表示すると、免許と広告(あはき法7条)の問題を同時に招くおそれがある。
結論:資格のない整体は「人体に危害を及ぼすおそれのない方法」で行うことが前提
整体院を開業する方や、パーソナルジムでストレッチやコンディショニングをメニューに加える方からよく寄せられるのが、「資格がなくても施術してよいのか」というご質問です。整体・カイロプラクティック・リラクゼーションには、法律上の資格制度がありません。しかし、資格制度がないことは「何をしてもよい」という意味ではありません。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下「あはき法」)12条は、「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない」と定めています。最高裁判所昭和35年1月27日大法廷判決は、この規定が禁止し処罰するのは、人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為に限られると解しました。資格制度のない手技の施術は、この枠組みの中で、人体に危害を及ぼすおそれのない方法で行うことが適法性の前提になります。
ですから、整体院やストレッチ専門店、パーソナルジムの契約書・利用規約で最初にすることは、施術者の資格の有無と、実際に行う手技を正確に書き、免許が必要な行為と、医療と誤解される行為を「行わないこと」として明記することです。ここでは、契約書でどう線を引くかを、事務所の書類から紹介します。
免許が要る行為を、まず押さえる
| 行為 | 資格 | 条文 |
|---|---|---|
| 医業(診断・治療その他の医行為) | 医師 | 医師法17条「医師でなければ、医業をなしてはならない。」 |
| あん摩・マッサージ・指圧 | あん摩マッサージ指圧師(医師を除く) | あはき法1条 |
| はり・きゅう | はり師・きゆう師(医師を除く) | あはき法1条 |
| 柔道整復 | 柔道整復師(医師を除く) | 柔道整復師法15条 |
| それ以外の医業類似行為 | 原則として業として行えない(人の健康に害を及ぼすおそれのあるもの) | あはき法12条 |
あはき法1条は「医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者」は免許を受けなければならないと定めています。
理学療法士は、医師の指示の下に理学療法を行うことを業とする者で(理学療法士及び作業療法士法2条3項)、診療の補助として理学療法を行うことができます(同法15条1項)。病院・診療所で、又は医師の具体的な指示を受けて理学療法として行うマッサージには、あはき法1条は適用されません(理学療法士及び作業療法士法15条2項)。裏を返せば、理学療法士の資格があっても、医師の指示のないところで行うマッサージがすべて自由になるわけではありません。
名称では決まらない:ストレッチの補助とマッサージを分けて書く
「ストレッチ」「コンディショニング」「ボディケア」と名付ければ免許が不要になるとも、反対にすべて違法になるとも断定できません。実際の手技・目的・対象者・広告で判断されます。FC本部のレビューでも、事務所は「『施術』と書くだけで資格が必要になるわけではないが、実際の行為があん摩・マッサージ・指圧又は医業に当たれば、あはき法1条・医師法17条の確認が必要。実際のサービスを別紙に列挙し、診断・治療の提供を当然に含む表現を避ける」と指摘しました。
パーソナルジムの運営会社の案件では、依頼者原案のトレーナー向けガイドラインが、医療診断・医療行為を行わない、身体への接触は指導上必要な範囲に限る、サプリメントなどの医学的効果を断定しない、と定めていました。事務所はいずれも適切と評価したうえで、禁止の根拠となる法令を明記し、SNSでの発信にも及ぶことを書き、ストレッチの補助などとマッサージ・施術との区別を示すよう提案しました。
事務所の書類での改訂 パーソナルトレーナー向けガイドラインの禁止事項
医行為・施術の禁止
理由トレーナーのストレッチの補助と、免許が必要な施術との線を、ガイドラインの文言で示しておきます。
痛み・既往症への対応
理由痛みや既往症への対応を、トレーナーの判断で施術的な手当てに広げないためです。
物品の効果
理由表示の規制にもつながります(効果表示・SNS)。
業務範囲の判定の流れを、契約の前に作る
企業の事業所で理学療法士・作業療法士がコンディショニングを行うサービスの案件では、依頼者のたたき台が、サービスを「コンディショニングを中心とし、体調・希望の確認及びセルフケアの助言を含む」とするだけで、「コンディショニング」の中身が定義されていませんでした(運転席の人体計測・作業環境・セミナーなどの詳細な評価は範囲外とする切り分けはあり、これは適切なものとしてそのまま活用しました)。事務所は、契約書の作成のご提案の段階で、提案書に次の判定の流れを示しました。
コンディショニングの業務範囲の判定(提案書の流れを一般化)
疾病の診断・治療を目的とする行為か。
はい医業(医師法17条)。サービスの範囲外とする。
いいえ → 次へ
あん摩・マッサージ・指圧に当たる手技か。
はい免許を持つ担当者に限る。担当者の資格を条文で限定する。
いいえ → 次へ
人体に危害を及ぼすおそれがある方法か。
はい実施しない(あはき法12条、最高裁昭和35年1月27日大法廷判決)。
いいえ → 次へ
ここまでのどれにも当たらないもの(体調の確認、ストレッチなどの運動指導、姿勢や動作の助言、セルフケアの指導など)が、サービスの範囲として残ります。
提案書では、国民生活センター(平成24年8月2日公表)や消費者庁(平成29年5月26日公表)が、法的な資格制度のない手技による医業類似行為の施術について危害の事例を示して注意を呼びかけた資料も引き、事前の確認・中止の基準・事故対応を契約に置くよう示しました。国民生活センターの資料によれば、整体やマッサージなど器具を使用しない手技による医業類似行為を受けて危害が発生したという相談が、2007年度以降の約5年間(2012年6月末日までの登録分)で825件寄せられ、危害程度の回答があった相談の約8割は医療機関を受診しており、そのうち約3割は治療に3週間以上を要していました。体験の段階で既往症や痛みの部位を聞き取り、施術の可否を判断する手順を置いておくことも、その一つです(体験の利用条件)。手技の施術では、施術そのものの範囲を決めることと並んで、施術の前に何を確かめ、どんなときに止め、事故が起きたら何をするかを決めておくことが、線引きを実際に守るための仕組みになります(事故・保険)。
行政の通知が示す危険な手技と、「行わないこと」の書き方
手技の危険については、厚生省(当時)の平成3年6月28日付の通知(医事第58号「医業類似行為に対する取扱いについて」)が、医業類似行為の施術が医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれがあれば禁止処罰の対象となるという昭和35年の通知の考え方を示したうえで、いわゆるカイロプラクティック療法について、腫瘍性、出血性、感染性疾患、リュウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等は対象とすることが適当でないこと、とりわけ頸椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は危険が大きく禁止する必要があること、症状が軽減・消失しない場合は施術を中止して速やかに医療機関で精査を受けるべきことを示しています。FC本部のレビューでも、この通知を参照しました。整体院の利用規約や同意書で、施術の対象としない症状、行わない手技、受診を勧める場面を具体的に書くときの手がかりになります(施術をお断りする場合・禁忌の書き方)。
サービスに含まない行為は、施術者が持っている資格と、実際に行う手技を出発点に書きます。前出のパーソナルジムのガイドラインでは、医療上の診断その他の医行為と、あん摩・マッサージ・指圧に当たる施術を行わないことを禁止事項として並べ、ストレッチの補助はトレーニングの指導上必要な範囲に限るとしました。整体院・ストレッチ専門店・パーソナルジムの利用規約に「当店で行わないこと」を書くなら、①診断・治療その他の医行為、②あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復のうち施術者が免許を持たないもの、③医師の指示の下で行うリハビリ、を並べ、お客様から求められたときの対応(行わない旨の説明と受診の勧め)を続けて書いておくと、施術者が迷ったときの判断の根拠にもなります。
理学療法士の名称と「リハビリ」
同じ案件の提案書では、サービスを予防的・健康増進的な業務として位置づけ、疾病の診断・治療を目的とする行為は行わないと明記することで、資格の名称を表示しつつ医療行為と誤解されない構成にできる、と説明しました。厚生労働省医政局医事課長の平成25年11月27日付の通知(医政医発1127第3号「理学療法士の名称の使用等について」)は、理学療法士が介護予防事業等において、身体に障害のない者に対して転倒防止の指導等の診療の補助に該当しない範囲の業務を行うときであっても「理学療法士」という名称を使用することは何ら問題ないこと、また、そのような業務を行うときは医師の指示は不要であることを示しています。医師の指示が不要とされるのは診療の補助に該当しない範囲の業務であって、理学療法そのものを医師の指示なく行えるわけではありません。
反対に、医師の指示がないのに企業内で「リハビリ」と称してサービスを提供すると、医療の一部である理学療法を行っているかのように受け取られます。資格を前面に出すときほど、「何をしないか」を同じ書面ではっきりさせておくことが大切です。
施術内容の書き方と、広告の制限
整体の契約書で施術の中身をどう書くかも、線引きに直結します。個人の整体院の回数券の契約書(依頼者の指定条件を反映した当初版)は、施術を「甲が提供する全身調整などの整体サービス」としていました。整体の高額プログラムの依頼者原案は、独自のメソッドに基づき「身体の歪みの調整、姿勢矯正、各種筋肉および関節のバランス改善、ならびにそれに伴う不定愁訴(肩こり、首こり等)の緩和を目的として、アクティベーター機器および手技(指圧等)を用いて提供される包括的施術」としていました。
一般論として、免許のない整体で手技の説明に「指圧」の語を使う、不定愁訴の「改善」を目的に掲げる、といった書き方は、あはき法1条や医師法17条との関係で説明を求められやすくなります。契約書や利用規約は、施術者の資格の有無と、実際に行う手技を正確に書くことが出発点です。
広告にも制限があります。あはき法7条1項は、あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅうの業務又は施術所に関しては、何人も、いかなる方法によるかを問わず、施術者である旨と氏名・住所、業務の種類、施術所の名称・電話番号・所在の場所、施術日・施術時間、厚生労働大臣が指定する事項以外を広告してはならないと定めています。柔道整復についても同様の規定があります(柔道整復師法24条)。資格のない整体院がメニューやチラシに「マッサージ」「指圧」と表示すると、免許の問題と広告の問題を同時に招くおそれがあります。
| 原案に見られる書き方 | 説明を求められやすい点 | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 「手技(指圧等)を用いて」 | 免許のない施術者が「指圧」を行うと読める。 | 実際に行う手技を、免許が必要な行為と重ならない言葉で具体的に書く。 |
| 「不定愁訴の改善を目的とする」 | 疾病の治療を目的とするように読める。 | 「体を動かしやすくするための調整」など、治療と誤解されない目的にする。 |
| 「全身調整などの整体サービス」 | 何をするのかが分からず、事故の際に確認していた内容を示せない。 | 主な手技と、行わないこと(診断・治療、免許が必要な手技)を並べて書く。 |
| 施術者の資格の記載なし | 資格の有無をお客様が確認できない。 | 施術者の資格の有無と種類を書く。 |
FC本部・複数店舗で、手技を含むメソッドを広げるとき
特定の競技に特化したパーソナルトレーニングジムのFC本部の案件では、事務所は詳細レビューで、本部の認定研修の修了は国家資格や医師免許に代わるものではない(現在のサービスが法令違反であると認定したものではない、と注記したうえで)と指摘し、競技の指導とコンディショニングの具体的な行為・資格・中止の判断を定めるよう求めました。あわせて、認定トレーナーについて、研修・資格・業務範囲・認定の更新の条件を定義し、雇用か業務委託かを定義の中で固定しないことも求めています。
事務所の書類での改訂 FC契約での確認責任と、トレーナーの資格
適法性の確認
理由本部の手順書どおりにやれば当然に適法、とは言えません。確認の責任と周知の義務の分担を書きます。
認定トレーナー候補の資格
理由本部の認定資格を国家資格のように見せないためにも、前提となる資格を明確にします(フランチャイズ契約)。
条文例
整体院の利用規約 第◯条(施術の内容と施術者)
1当院の施術は、手技による全身の調整を中心とし、主な内容は、関節の動きの確認、筋肉の緊張をゆるめるための手技、ストレッチ及びセルフケアの助言です。
2当院の施術者は、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師その他の国家資格を有していません。当院は、診断・治療その他の医療行為、あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう及び柔道整復を行いません。
3当院は、強い力で骨格を矯正する手技、首を急にひねる手技その他人体に危害を及ぼすおそれのある方法による施術を行いません。
4お客様の症状から医療機関での診察が必要と考えられるときは、施術を行わず、受診をお勧めします。
資格のない施術者の整体院を想定した一般的な例です。施術者が国家資格を持つ場合は、第2項をその資格と業務範囲に合わせて書き換えます。
ヒヤリングの問いと理由 施術・コンディショニングの範囲の確認
- 施術者・トレーナーは、どの資格を持っていますか。資格によって行える行為が違います。担当者の資格を契約書や利用規約に書くかを決めます。
- 実際に行う手技は何ですか。強い力をかける手技、首や腰への矯正的な手技を含みますか。人体に危害を及ぼすおそれのある方法は行わない、という前提に照らして、範囲を決めます。
- メニュー・チラシ・ウェブサイトで「マッサージ」「指圧」「治療」「改善」と表示していますか。表示と契約書の記載をそろえ、免許や医療と誤解される言葉を見直します。
- 痛みや持病を訴えるお客様に、どう対応していますか。受診を勧める基準を決め、ガイドラインや同意書に書きます(けが・同意書)。
よくあるご質問
資格がなくても整体院は開業できますか?
整体・カイロプラクティック・リラクゼーションには法律上の資格制度がありません。ただし、あん摩・マッサージ・指圧に当たる手技は免許が必要で、資格のない手技の施術は人体に危害を及ぼすおそれのない方法で行うことが前提です。契約書や利用規約に、実際に行う手技と行わないことを正確に書いておきます。
パーソナルトレーナーがお客様のストレッチを手伝うのはマッサージに当たりますか?
名称では決まらず、実際の手技・目的で判断されます。トレーニングの指導上必要な範囲のストレッチの補助にとどめ、マッサージ・指圧に当たる施術は行わない、とガイドラインで線を引いておくのが基本です。
整体院の広告で「マッサージ」と書いてはいけませんか?
あはき法7条は、あん摩・マッサージ・指圧などの業務又は施術所について広告できる事項を限定しています。資格のない整体院が「マッサージ」「指圧」と表示すると、免許の問題と広告の問題を同時に招くおそれがあるため、実際に行う手技を正確に表す言葉を使います。
理学療法士が企業の健康経営サービスをするときの注意点は?
予防的・健康増進的な業務として位置づけ、疾病の診断・治療や医師の指示の下に行うリハビリは行わないと契約書と利用者向けの書面に明記します。資格の名称を表示するときほど、「行わないこと」を同じ書面ではっきりさせておきます。
フランチャイズ本部の認定資格で施術させてもよいですか?
本部の認定研修の修了は、国家資格や医師免許に代わるものではありません。指導の範囲を契約で限定し、免許が必要な行為に当たらないことの確認の責任と、トレーナーへの周知の義務を、本部と加盟店の間で分担して書いておきます。
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