このページの要点
- 録画の禁止は契約で定める部分が大きく、定額の違約金より、削除・停止・損害賠償・解除の順に書く方が堅い。
- 動画の販売は、購入前の表示と規約の視聴期間を一致させ、配信終了時の精算の算式を決めておく。
- 通信障害は、店・会議システム・会員・不可抗力に分け、回数の扱いを時間の区切りで書く。
- 海外の会員は、受けるかどうかを先に決め、緊急時の所在確認と、裁判所の定めの限界を踏まえる。
結論:対面の規約の「スタジオ」を「オンライン」に読み替えるだけでは、五つの条項が空白のまま残る
オンラインレッスンやオンラインパーソナル、収録した動画の販売を始めるとき、対面用の利用規約をそのまま流用する店は少なくありません。しかし、読み替えるだけでは、①録画・撮影、②動画の権利と視聴期間、③海外からの受講、④通信障害、⑤自宅での事故、という五つの場面が規約に書かれないまま残ります。この五つは、いずれも対面では起こらないか、起こっても別の形で現れる論点です。
先に答えを並べます。録画の禁止は、契約(規約)で定める部分が大きくなります。共有した場合に一律の金額を請求する書き方は、争われやすい定めです。動画の販売では、視聴期間と配信終了時の扱いを、購入前の表示と規約で一致させます。海外から受ける人については、緊急時の対応と裁判所の定めを分けて考えます。通信障害は「誰の側の障害か」で回数の扱いを段階に分け、自宅での事故は、全部免責ではなく、開始前の確認と中止の権限で備えます。
まず用語を整理します。ライブ配信は、会議システムなどを使って、トレーナーと会員が同じ時間に画面越しで行うレッスンです。オンデマンド配信は、あらかじめ収録した動画を、購入した人が好きな時間に視聴する形です。動画添削は、会員が自分の動きを撮影して送り、トレーナーが動画を見て助言を返す形です。同じ「オンライン」でも、この三つで規約に書くことが変わります。
| 形態 | 主な論点 | 規約で決めること |
|---|---|---|
| ライブ配信(1対1) | 通信障害、会員側の環境、録画、自宅での事故、受講場所 | 開始前の確認、障害時の回数の扱い、録画の可否、中止の権限 |
| ライブ配信(グループ) | 他の参加者の映り込み、画面の撮影、参加者どうしの接触 | 撮影・スクリーンショットの禁止、表示名と映像の扱い、退出の措置 |
| オンデマンド配信(動画販売) | 視聴期間、配信終了、複製・共有、出演者や音楽の権利 | 提供の完了時点、視聴期間と終了時の精算、共有の禁止、権利の整理 |
| 動画添削 | 会員が送った動画の個人情報、保存期間、広告への転用 | 利用目的、保存と消去、掲載の同意を別にすること |
対面の規約の考え方はピラティス・パーソナルジムの利用規約の作り方にまとめています。この記事は、オンラインで足りなくなる部分に絞って扱います。
録画・録音・スクリーンショットは禁止できるのか、禁止しきれない場面はどこか
結論から言うと、レッスンの録画やスクリーンショットを禁じることはできますが、その根拠は主に契約です。著作権法は、著作物を複製する権利(21条)と、公衆に送信する権利(23条1項)を著作者に認めています。一方で、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使うための複製は、使う本人がすることができます(30条1項)。会員が自分の復習のためだけに録画する行為は、この私的使用に当たり得ます。さらに、トレーナーの説明や動きのすべてが「思想又は感情を創作的に表現したもの」(2条1項1号)とは限らないため、著作権で保護されるかどうかは指導の内容によって異なります。
この前提に立つと、禁止したいのは録画そのものというより、「共有・投稿・転用」と「他の参加者の映り込み」だと整理できます。実務では、次のような書き方が見られます。一つは、事前の承諾なく撮影・録音・録画をすること、およびそれを第三者に開示・投稿することを禁止行為とする書き方です。もう一つは、オンラインレッスンの録画を認めたうえで、視聴できるのは受講者本人だけとし、第三者への共有や配布を禁じる書き方です。さらに、感想や雰囲気を個人的にSNSへ投稿することは認めつつ、レッスンの内容が再現できる形での動画の公開は例外なく禁止する、と二段階に分ける書き方もあります。
| 設計 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 全面禁止 | 事前の承諾がない撮影・録音・録画・スクリーンショットを禁止する | 復習のために録りたい会員との摩擦が出る。家族の同席や自動録画の機能も想定しておく |
| 本人の復習に限り許可 | 録画を認め、本人の視聴に限定し、共有・投稿を禁止する | 「本人の視聴」を超えた場合の措置を、段階的に定めておく |
| 事業者が録画を提供 | 店が録画し、期間と範囲を決めて会員に見せる | 店の録画には、会員の映像という個人情報の管理が加わる |
注意したいのは、共有した場合に一律の金額を請求する定めです。消費者契約法9条1項1号が上限を定めているのは「解除に伴う」違約金です。契約を続けたまま違反に科す金額は、この規定の対象ではなく、民法420条(賠償額の予定)と90条(公序良俗)、消費者契約法10条で、金額が過大でないか、一方的に消費者を害していないかが検討されます。録画の共有が実際にどんな損害を生むのかは、共有の範囲や内容によってまったく異なります。一律の金額を書くより、①直ちに削除する義務、②アクセスや利用の停止、③実際に生じた損害の賠償、④悪質な場合の契約の解除、の順に段階を書いておく方が、請求の根拠として堅くなります。
反対に、店の側が録画する場面もあります。事故が起きたときの検証、動画添削の素材、品質確認、広告用の素材では、録画の目的が違います。目的を特定せずに「サービス向上のため」とだけ書くと、使い道が広がりすぎます。会員の映像は、事故の記録として保存したいという事業者の利益と、会員の個人情報の管理の両方に関わります。録画を始める前に画面上で知らせること、目的ごとに保存期間を分けること、広告に使うときは別の同意を得ることを、規約に書いておきます。健康状態に触れる映像の扱いはカルテ・健康情報で整理しています。
条文例
録画・撮影の条文例(ライブ配信の規約)
1当店は、レッスンの安全確保、事故が生じた場合の確認及び動画添削のために、あらかじめ会員に知らせたうえで、レッスンの映像及び音声を録画することがある。当店は、録画した映像を、この目的の範囲を超えて利用しない。広告その他の目的で利用するときは、媒体、期間及び撤回の方法を示して、会員の同意を得る。
2会員は、当店の事前の承諾なく、レッスンの映像又は音声を録画、録音若しくは撮影し、又は画面を保存してはならない。当店が書面又は電子メールで承諾した場合も、利用は会員本人の復習に限る。
3会員は、レッスンの映像、音声、資料及び動画(以下「レッスン素材」という。)を、第三者に開示し、共有し、又は公衆に送信してはならない。ただし、会員が自らの感想をレッスン素材の内容を再現できない形で投稿することを妨げない。
4会員が前二項に違反したときは、当店は、会員に対し、レッスン素材の削除、利用の停止及び再発の防止を求めることができる。これに従わないとき又は違反が重大であるときは、当店は、レッスンの提供を停止し、又は契約を解除することができる。当店に損害が生じたときは、会員は、その損害を賠償する。
定額の違約金を置かず、削除、停止、損害賠償、解除の順に並べた例です。グループレッスンでは、他の参加者の映り込みを理由として、第3項に参加者の画面の撮影の禁止を加えます。
動画販売・オンデマンド教材:視聴期間、配信終了、共有、出演者と音楽の権利
収録した動画を販売するときは、提供した時点で履行が終わるのか、視聴できる期間をいつまで保証するのかが論点になります。規約には、視聴用のリンクを送った時点で提供が完了し、それ以後は返品・キャンセル・返金をしない、という書き方がよく見られます。インターネットで申込みを受けて販売する取引は、通信販売として広告に載せる表示の義務を伴います。返品・解約を受け付けるのか、受け付けないならその旨を、購入前の画面に分かるよう示しておく必要があります。規約にだけ「返金不可」と書き、購入画面に何も書かれていない状態は避けます。
視聴期間の書き方には、危うい例が二つあります。一つは、登録から一定の期間が過ぎたら、事業者は動画を提供し続ける義務を負わない、とだけ書く形です。期間の長さを購入前に示していなければ、会員は「いつまで見られるのか」を知らないまま代金を払います。もう一つは、販売ページに「永久に視聴できる」と書きながら、規約には、サービスを終了したら永久や無期限の視聴権も失効し、補償も返金もしない、と書く形です。表示と規約が食い違っており、どちらが契約の内容かが争われるうえ、消費者契約法10条の審査も受けます。「永久」と書くなら、「当店が配信を続ける限り」と限定をその場で併記します。
配信終了を想定するなら、精算の方法を決めておきます。金額は説明用の例です。
条文例
配信終了時の精算の例(動画の視聴権)
1当店は、動画の視聴権の期間中に、当店の都合により配信を終了するときは、終了の日の30日前までに会員に通知する。
2前項の場合において、当店は、会員が支払った代金のうち、終了の日の翌日から視聴権の期間の末日までの月数(1か月に満たない端数は1か月とする。)に応じた額を、次の算式により返金する。 返金額=支払った代金×残りの月数÷視聴権の期間の月数
3外部の配信サービスの停止又は仕様の変更により視聴できなくなったときは、当店は、他の方法による提供を試み、それが難しいときは、前項に準じて返金する。
例:12か月の視聴権を36,000円(税込)で購入し、7か月が過ぎた時点で配信が終わる場合は、残りが5か月なので、36,000円×5÷12=15,000円を返金します。端数を1か月に切り上げる扱いは、会員に有利な側に寄せる書き方です。
共有の禁止については、動画のURLやアカウントを他の人と共有する行為、ダウンロードして配る行為、SNSやコミュニティで転載する行為を挙げ、会員のアカウントは本人しか使えないと書きます。受講する権利を他人に使わせることの禁止は、対面の規約にもありますが、オンラインでは家族が同じ画面で受ける場面が生じます。同じ世帯で一緒に受けてよいのか、よいなら人数と条件はどうか、を決めておきます。
もう一つ、動画の権利の整理が必要です。動画には、出演者、撮影した人、編集した人、背景に流れる音楽、画面に映る衣装や器具のロゴなど、複数の権利が重なります。撮影・編集を外部に頼むと、動画の権利の帰属が曖昧になりかねないため、契約で定めます。著作権を譲り受けるときは、翻案する権利など(27条・28条)を譲渡の対象として特掲しないと、それらは譲渡した側に留保されたものと推定されます(61条2項)。出演する他のトレーナーやモデル、会員の映像を使うときも、撮影と公開の範囲について同意を得ておきます。動画制作の委託では、出演者が納品後に同じ構成の動画を他社に提供してよいか、使用の媒体と期間をどうするかも、実務では決める項目です。トレーナーが出演する場合の整理はパーソナルトレーナーの業務委託契約書にも関わります。
音楽には、特に注意が要ります。動画の背景に市販の楽曲を流すと、楽曲の複製と公衆への送信に許諾が必要になる場面があります。ライセンスのある素材を使うのか、楽曲の使用許諾を取るのかを制作前に決め、使用した楽曲を一覧にして残しておきます。動画で効果を訴える表現は、効果表示・ビフォーアフターの基準にも従います。
海外在住の会員・海外からの受講:決めるのは、受けるかどうかと、緊急時の対応
オンラインでは、海外に住む人や、旅行・出張で海外にいる人が申し込むことがあります。規約に何も書かれていないと、事故や代金の争いが起きたとき、どの国の法律で、どこの裁判所で扱うのかが分からなくなります。最初に決めるのは、海外在住の人を受け付けるかどうかです。受けないなら、申込みの時点で居住地を日本国内に限るとし、確認の方法を決めます。受けるなら、次の点を規約に加えます。
| 論点 | 起こること | 規約で決めること |
|---|---|---|
| 時差と実施時間 | 会員の都合の時刻が、トレーナーの稼働時間と合わない | 受け付ける時間帯、日本時間での表示、遅刻・欠席の基準時刻 |
| 緊急時の対応 | 会員が体調を崩したとき、店は現地の救急を呼べない | 受講場所の住所と緊急連絡先の事前登録、中止の権限、現地の救急への連絡は会員側とすること |
| 決済と費用 | 決済手段、手数料、返金時の手続が国内と異なる | 決済手段の限定、手数料の負担、返金の方法 |
| 医師の許可・健康情報 | かかりつけ医が国外にあり、診断書の確認が難しい | 申告の方法と言語、確認できない場合の対応 |
| 準拠法と裁判所 | 日本の規約でも、会員の居住国の保護が及ぶことがある | 日本法を準拠法とする旨と、裁判所の定め方 |
準拠法と裁判所の定めは、事業者の側から見ると、日本法と日本の裁判所に統一したくなる項目です。ただし、消費者との契約では限界があります。民事訴訟法3条の4第1項は、消費者から事業者への訴えについて、訴えを起こすときか契約を結んだときのどちらかに消費者の住所が日本国内にあれば、日本の裁判所に提起できると定めています。反対に、将来の紛争について日本の裁判所だけを指定する合意は、契約を結んだ時点で消費者が住んでいた国の裁判所にも訴えられる形のものか、消費者が自ら合意に基づいて日本で提訴した場合などに限って効力を持ちます(同法3条の7第5項)。つまり、契約を結んだときに海外に住んでいた会員に対して「日本の裁判所のみ」と書いても、そのとおりには働かないことがあります。準拠法についても、消費者が居住国の強行規定の適用を求めると、その規定が適用される仕組みが、法の適用に関する通則法の消費者契約の特例にあります。
個人情報にも海外の論点があります。会員の映像や申込情報を海外のサーバーに置く外部サービスを使うときは、外国にある第三者への提供の制限(個人情報保護法28条)の対象になり得ます。会員に外国で情報が扱われる可能性を知らせ、必要な場面で同意を取ります。個人情報の取扱いはプライバシーポリシーに書くのが基本です。
通信障害:誰の側の障害かで、回数の扱いを段階に分ける
オンラインレッスンで最も多いトラブルは、通信の途切れです。規約に「通信環境やシステムの不具合について、当店は一切責任を負いません」と書く例がありますが、この一文は、書いた事業者が考えるほど役に立ちません。理由は二つあります。一つは、責任を負わないと書いても、レッスンが実施できなかった回の扱いが決まらないことです。もう一つは、事業者の債務不履行による損害賠償責任を全部免除する条項は、消費者契約では無効とされること(消費者契約法8条1項1号)です。
整理の軸は、障害の所在です。店の側の回線や機材、使っていた会議システムの障害、会員側の回線や端末、そして大規模な通信障害や停電などの不可抗力です。店の側に落ち度があれば債務不履行の問題になります(民法415条)。双方に責任がない障害で提供ができなくなったときは、会員は代金の支払を拒むことができます(民法536条1項)。つまり、責任を免れる条項を並べる前に、「実施できなかった回を消化するのか、再実施するのか、返金するのか」を決めておくことが先です。
| 所在 | 具体例 | 扱いの例 |
|---|---|---|
| 店の側 | トレーナーの回線の切断、機材の故障 | 消化せず再実施。再実施が難しいときは返金 |
| 会議システムの側 | サービス全体の停止 | 消化せず再実施。再開が見込めない場合の取扱いを書く |
| 会員の側 | 会員の回線の不調、端末の故障 | 一定時間内に復旧すれば継続。復旧しなければ、実施した時間に応じて消化または再実施 |
| 不可抗力 | 広域の停電、大規模な通信障害 | 消化せず再実施または延長。責任の免除は不可抗力に限る |
「会員の側」を一律に消化とする書き方は、消費者契約法10条の審査を受けやすくなります。段階を設けると、説明もしやすくなります。
実施時間に応じた扱いを決める場合は、数値で書くと運用が揃います。説明のための数値例として、60分のレッスンを1回8,800円(税込)で前払いし、店の側の障害で途中終了した場合を考えます。開始から30分未満で終了したときは、その回を消化せず再実施する。30分以上実施していたときは、その回を消化し、不足した時間を次回に追加する。返金で精算するなら、1分あたり約146.7円(8,800円÷60分)で未提供の時間を計算する。たとえば25分で終了し、再実施できない場合の返金額は、8,800円×35÷60=約5,133円です。この算式を規約に書いておけば、会員にとっても、店にとっても納得しやすくなります。
条文例
通信障害のときの回数・料金の条文例
1レッスン中に通信の障害その他の事由により、レッスンの全部又は一部を実施できなかったときの扱いは、次の各号のとおりとする。(1) 当店の側に原因があるとき:開始から30分未満で終了した場合は、そのレッスンを消化済みとせず、再度実施する。30分以上実施した場合は、そのレッスンを消化済みとし、不足した時間を次回のレッスンに追加する。(2) 会員の側に原因があるとき:開始から15分以内に復旧すればレッスンを継続する。復旧しないときは、実施した時間が30分以上であれば消化済みとし、30分未満であれば会員の申出により再度実施する。(3) 広域の通信障害、停電その他の当事者の責めに帰すことができない事由によるとき:そのレッスンを消化済みとせず、再度実施する。
2前項により再実施をする場合の日時は、会員と当店が協議して定める。再実施が会員の都合で行えないまま有効期限を過ぎたときは、当店は、前項第1号及び第3号の場合に限り、未提供の時間に相当する額を返金する。
3会員は、レッスンの受講に必要な通信環境、端末、カメラ及び音声機器を、自らの費用で用意する。当店は、推奨する環境を会員に知らせる。
会員側に原因があるときも、実施時間に応じた消化を書いています。消化の扱い全般は予約キャンセルの「1回消化」・休会・退会で、返金の考え方は回数券・月謝・入会金の返金ルールで整理しています。
また、対面の会員が体調不良のときにオンラインへ切り替える運用や、店の都合で形式をオンラインに限定する運用があります。形式を変える理由を限定せず、「理由を問わず変更できる」とし、変更を断る会員にも返金も繰越もしない、と書く規約は、一方的に会員を不利にする定めとして争われやすくなります。理由は、感染症、災害、施設が使えない事情、トレーナーの事情に限定します。変更の結果、会員にスタジオ利用料や交通費のような費用が生じる場合の負担は、誰が負うのかを具体的に書きます。
自宅で起きる事故:画面越しの指導で何を確認し、何を免責しない
オンラインのレッスンは、トレーナーが会員のそばにいません。動きを補正するために体に触れることができず、床の素材、家具との距離、天井の高さ、使う器具が適切かどうかも、画面に映る範囲でしか分かりません。画面の外で起きていることは見えず、体調の急変も、表情と声からしか読み取れません。こうした事情が、オンライン特有の事故の原因になります。
よくある誤りは、「自宅で行うレッスン中の事故について、当店は一切責任を負いません」と書くことです。トレーナーの指示が不適切だった場合や、体調の確認を怠った場合まで責任がないとは言えず、この書き方は消費者契約法8条1項1号・3号で無効とされる類型です。責任の上限を設けるなら、故意又は重大な過失による場合を除くことを、上限を定める条項の中に書く必要があります(同条3項)。免責条項の全般は同意書と免責条項で扱っています。
免責より先に、事故を防ぐための手順を決めておきます。具体的には、①申込み時に本人の確認、健康状態の申告、受講する場所の住所、緊急連絡先を登録すること、②毎回の開始時に、当日の体調、睡眠、服薬、けがや痛みの有無を聞くこと、③床と周囲のスペースを画面で確認し、危険があるときは動きの種類を変えるか、開始を見合わせること、④痛みや異常を感じたら直ちに中止し、トレーナーも中止を指示できること、です。中止の場合に回数を消化しない定めを置いておくと、トレーナーも会員も、無理をしない判断をしやすくなります。
未成年の会員には、保護者の同意と、レッスン中に保護者が同じ場所にいることを条件にするかどうかを決めます。家族が画面に映る可能性や、自宅の様子が映ることも、レッスン前に断っておきます。
条文例
開始前の確認・中止の条文例
1会員は、申込みの際に、氏名、受講する場所の住所、緊急時の連絡先、既往症及び現在の体調を、当店に正確に申告する。受講する場所が変わるときは、事前に届け出る。
2当店は、各回のレッスンの開始前に、会員の当日の体調と、受講する場所の広さ及び安全を、画面で確認する。当店が安全に実施できないと判断したときは、動きの内容を変更し、又はレッスンの開始を見合わせることができる。
3会員は、レッスン中に痛み、めまい、息苦しさその他の異常を感じたときは、直ちに動きを止めて当店に知らせる。当店は、必要と判断したときは、レッスンを中止し、会員に医療機関への相談を勧める。
4当店が前項により安全のためにレッスンを中止したときは、そのレッスンを消化済みとしない。
免責の条文ではなく、確認と中止の条文です。事故の補償や保険の考え方はジム・スタジオの事故と保険で整理しています。
事故の記録も重要です。店の側で録画をしていれば、当時の指示と会員の様子を確認でき、双方にとって事実の確認の土台になります。人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から5年で時効により消滅します(民法724条の2、724条1号)。録画を事故の記録として残すなら、保存期間をこの期間と合わせて検討します。
よくある失敗と直し方
ここまでの内容を、規約でよく見られる書き方と、直した書き方の対比にまとめます。
書き方の例(一般的な例) オンラインの規約
録画の共有
理由契約を続けたまま科す定額の金額は、民法420条・90条、消費者契約法10条で争われやすく、損害の実態とも結びつかない。
通信障害の免責
理由全部の免責は消費者契約法8条1項1号で無効とされる。責任の有無とは別に、実施できなかった回をどうするかの決めが必要。
形式の一方的な変更
理由会員が選べない形式への変更は、消費者の利益を一方的に害する定めとして争われやすい。
視聴権の表示
理由表示と規約の食い違いは、どちらが契約の内容かが争われる。
受講権の他人利用
理由オンラインでは家族の同席が起こりやすく、禁止だけでは運用と合わない。
国外の会員
理由消費者契約では、日本の裁判所だけを指定する合意の効力が限定される(民事訴訟法3条の7第5項)。
ヒヤリングで確認すること
オンラインの規約は、提供の形態と運用が決まらなければ書けません。次の問いに答えてもらうと、条文の骨格が決まります。
ヒヤリングの問いと理由 オンラインの規約を作る前の問い
- 提供の形態は、ライブ配信、オンデマンド配信、動画添削のどれですか。組み合わせますか。形態ごとに、録画、視聴期間、保存、返金の論点が違います。組み合わせるなら、条を分けて書きます。
- レッスンの録画を、店は取りますか。会員の録画は認めますか。録画の設計(全面禁止、本人の復習に限る、店が提供)を選ぶ出発点です。店が録るなら、目的と保存期間を決めます。
- 動画の視聴期間は何か月ですか。配信をやめるとき、どう精算しますか。販売ページの表示と規約を一致させ、終了時の算式を作るための問いです。
- 出演者は誰ですか。撮影と編集は誰が行いますか。音楽は何を使いますか。権利の帰属を契約で決めるか、許諾を取るかを判断します。外注先がある場合は、委託契約も確認します。
- 海外在住の会員を受け付けますか。受けるなら、決済と緊急時の対応はどうしますか。受付の可否で規約の構成が変わります。受けるなら、住所と緊急連絡先の登録を条件にします。
- 通信障害でレッスンが中断したとき、今はどう対応していますか。現在の運用を数値(時間の区切り)に落とし、規約に写します。運用と規約が食い違わないようにします。
- 会員の自宅の安全は、開始前にどう確認していますか。器具は誰が用意しますか。事故の防止手順と、中止の権限を条文にする材料です。器具の貸与や指定があれば、その責任も決めます。
- 未成年の会員、妊娠中や産後の会員、持病のある会員はいますか。保護者の同意や同席、医師の許可の扱いを決めます。同意書との関係は同意書の記事と合わせて確認します。
運用が決まっていない項目は、決まっていないことを前提に、「当面このように扱う」と暫定の書き方で整理し、運用が決まった後で見直します。
よくあるご質問
オンラインレッスンの録画を、規約で一律に禁止できますか。
禁止行為として定めることはできます。ただし、本人の復習のための録画は私的使用に当たり得るため、著作権法だけに頼らず、規約で承諾の要否と共有・投稿の禁止を定めます。共有された場合は、一律の金額ではなく、削除・停止・損害賠償・解除の順に書く方が堅くなります。
録画を共有した会員に、定額の違約金を請求できますか。
契約を続けたまま科す違約金は、消費者契約法9条1項1号の対象ではありませんが、民法420条・90条や消費者契約法10条で、金額が過大でないかが検討されます。損害の実態と結びつかない定額の金額は、争われやすい書き方です。
動画講座の視聴期間は、どう書けばよいですか。
購入前に期間を示し、販売ページと規約を一致させます。「永久」と書くなら「配信を続ける限り」と併記し、配信を終了するときは事前の通知と、残りの期間に応じた返金の算式を規約に書きます。
海外に住む会員との契約で、日本の裁判所だけを管轄にできますか。
契約を結んだ時点で消費者が海外に住んでいた場合、日本の裁判所のみを指定する合意は、消費者が自ら日本で提訴したときなど限られた場合にしか効力を持ちません(民事訴訟法3条の7第5項)。原則として日本の裁判所としつつ、法令により認められる場合を妨げない旨を留保します。
通信が途切れたレッスンは、消化してよいですか。
障害の所在で分けます。店や会議システムの側の障害なら、消化せず再実施か返金を基本にします。会員の側の障害は、復旧までの時間と実施した時間に応じた扱いを段階で書きます。一律に消化とする書き方は争われやすくなります。
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本ページは一般的な情報提供です。法令の解釈や行政の運用は、個別の事情や今後の改正・通知によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は、法令の原文と官公庁の公表資料で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 国民生活センター / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 個人情報保護委員会