このページの要点
- 責任の全部を免除する条項は無効(消費者契約法8条1項1号・3号)。
- 上限などで一部を免除するなら、故意・重大な過失の場合を除くことを条項自体で明らかにする(8条3項)。
- 効果を保証しないことと、身体の損害の責任を免れることは別の問題。条を分けて書く。
- 申告違反は「その限度で」責任を負わない形に限定し、事故の記録は人身損害の賠償請求権の時効(損害と加害者を知った時から5年。民法724条の2)を踏まえて保存する。
結論:全部の免責は無効。一部の免除は「軽い過失に限る」ことを条項自体に書く
整体院の同意書やジムの利用規約で、最初に確かめたいのが免責の書き方です。消費者契約法8条1項は、事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項(1号)と、事業者の債務の履行に際してされた不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項(3号)を無効としています。トレーニングの指導中や施術中のけがは、この両方にまたがる場面です。
軽い過失の場合に責任の一部を免除したり、賠償額の上限を定めたりすることはできます。ただし8条3項により、その条項が「重大な過失を除く過失による行為にのみ適用される」ことを条項の中で明らかにしていなければ、無効になります。さらに、故意又は重大な過失による場合の一部免除も無効です(8条1項2号・4号)。つまり、上限を定めるなら「当店に故意又は重大な過失がある場合を除き」と書き、責任を負わない場面を定めるなら、お客様が自ら管理する私物の紛失のように、店に責任がない場面を具体的に限定して書く必要があります。
また、ひな形の継ぎはぎで、規約の前半に「一切責任を負わない」、後半に「故意又は重大な過失がある場合を除く」が並んでいる例も見かけます。どちらが効くのかが争いになるので、免責は「効く形で、一か所に、矛盾なく」書くのが原則です。
免責条項の三つの書き方を比べる
パーソナルトレーニングと痩身機器を提供する店の依頼者原案は、第8条で、妊娠中・産後間もない方、高血圧・心疾患・皮膚疾患などの持病のある方は「かかりつけの医師にご相談いただき、許可を得た上でのご利用」をお願いし、スタッフが健康上の懸念があると判断すれば見合わせ、「上記内容を満たさずにご利用されたことに起因するトラブル等については、当社では責任を負いかねます」としていました。第9条は「当社に故意または重大な過失がない限り、当社は一切の責任を負いません」、第10条は故意又は重大な過失がある場合に限り賠償し、その上限を過去3か月の利用料金とし、各条に「消費者契約法その他強行法規に反しない範囲において適用」と付けていました。依頼者との協議を踏まえた改訂では、トレーナーが安全上の懸念から途中で中止・制限できる旨と、その場合は1回分を消化しない旨を加えています(キャンセルと安全のための中止)。
この原案は、免責の書き方を考える格好の素材です。一般論として整理すると次のようになります。
| 書き方 | 8条での位置づけ | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 「故意又は重大な過失がない限り、一切責任を負わない」 | 軽い過失の場合の責任の全部の免除と読めるため、8条1項1号・3号の審査を受ける。 | 軽い過失でも責任を負うことを前提に、上限を設けるか、責任を負わない場面を具体的に限定する。 |
| 「賠償額の上限は過去3か月の利用料金」 | 責任の一部の免除。故意・重過失の場合を除くことを条項自体で明らかにしないと無効(8条3項)。故意・重過失の場合に上限を適用すれば8条1項2号・4号で無効。 | 「当店に故意又は重大な過失がある場合を除き、賠償額は◯◯を上限とします」と書く。 |
| 「消費者契約法その他強行法規に反しない範囲で適用する」 | この留保だけで条項が有効になるわけではない。8条3項は、軽い過失に限ることを明らかにしていない一部免除の条項を無効とする。 | 留保に頼らず、条項の文言そのものを効く形にする。 |
「医師の許可」を「お願い」にとどめるか、許可書の提出を利用の条件にするかも、あわせて決めておきます。
上限の定めについては、最高裁平成15年2月28日第二小法廷判決(集民209号143頁)が、宿泊客がフロントに預けず種類と価額を明告しなかった物品の損害の賠償を15万円に制限する宿泊約款の定めについて、ホテル側に故意又は重大な過失がある場合に損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは「著しく衡平を害するものであって、当事者の通常の意思に合致しない」として、その場合には適用されないと判断しています。消費者契約法8条3項が軽い過失に限ることを条項の中で明らかにするよう求めているのと同じ方向で、事業者どうしの契約で上限を定めるときにも、故意・重大な過失の場合を除くと書いておくのが基本です(出張・法人向けサービスの賠償の上限)。
「施設内の事故は一切責任を負いません」を見直す
パーソナルジムの運営会社の顧客向け契約書の《当施設の利用規定について》には、「当施設でご利用中の怪我や事故やトラブル等は一切の責任を負いません。(盗難も含む)」と書かれていました。トレーナーの指導中の事故を含めて店の責任の全部を免除する書き方で、消費者契約法8条1項1号・3号で無効です。不特定多数のお客様との契約で使っている条項なので、適格消費者団体の差止請求の対象にもなり得ます(同法12条3項)。
事務所の書類での改訂 顧客向け契約書の免責
施設内の事故
理由全部の免責は無効で、無効な条項を信じて事故対応をすると初動を誤ります。
実際の備え
理由免責条項より、保険の補償範囲の確認が実際の備えになります(事故・保険)。
FC本部のひな型(AIで作成されたもの)をレビューした案件でも、事前の健康状態の確認・中止の基準・事故対応・保険の定めがなかったため、事務所は「本部と加盟店の間の内部の負担の合意は、お客様の損害賠償請求を当然には制限しない。顧客向け利用規約の全面免責で事故を処理する設計は避ける」と指摘し、FC契約に身体の安全の条項を新設しました(フランチャイズ契約)。
施術をお断りする場合・禁忌の書き方
個人の整体院の契約書(依頼者の指定条件を反映した当初版)には、発熱があるとき、妊娠中の方、過去3か月以内に脊柱を骨折された方、70歳以上で脊柱のMRI検査を受けていない方は施術を受けられない、その他体調や医師の診断内容により施術を控えていただく場合がある、という定めがありました。別の条では効果の個人差と、体調の変化について「重大な過失がない限り、これらに関して当院が責任を負うことはできかねます」とし、事故の際は誠意をもって対応するとしていました。
手技の施術者が、自分の技術の禁忌を具体的に書いておくことは、事前の確認として有用です。事故の際に「確認していた」という記録にもなります。一方、年齢による一律の条件は、理由(骨の状態や脊柱の状態を確認する必要があること)を併記しないと、配慮を欠いた印象を与えることがあります。病名や年齢で一律に断るより、断る場面(発熱、飲酒後、最近のけが・急な痛み、医師から運動を止められている、など)を具体的に書き、担当者が安全に実施できないと判断したら見合わせる、という形にする方が、受け入れの幅と安全の両方を確保しやすくなります。
整体の高額プログラムの依頼者原案には、妊娠中・持病の治療中・医師の判断で施術が不適切な場合は中断・制限でき成果未達に責任を負わない、先天的・後天的な骨格や筋肉の構造的な変形による外見・症状は効果を保証しない、該当の可能性があれば事前に申告し、隠したり誤って申告したりすれば中止・解除できる、施術を中止・制限した場合や成果が得られなかった場合も「損害賠償その他一切の責任を負わない」、という条項がありました。ここで分けて考えたいのは、効果を保証しないこと(役務の性質上当然で、書いてよい)と、身体の損害について責任を免れること(一括りに「一切責任を負わない」とすれば8条の問題)は別の問題だということです。体調の変化の説明と、身体の損害の責任は、条を分けて書くのが無難です。
| 書きたいこと | 扱い | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 効果には個人差があり、結果を保証しない | 役務の性質上当然のことで、書いてよい。 | 「施術・トレーニングの効果には個人差があり、特定の結果を保証するものではありません。」 |
| 施術の後に一時的なだるさや痛みが出ることがある | 起こり得る体調の変化の説明。事前に説明しておくことに意味がある。 | 「施術の後、一時的に痛みや疲労感が出ることがあります。続く場合はご連絡ください。」 |
| 施術・指導中のけがについて責任を負わない | 全部の免除は無効(8条1項1号・3号)。 | 責任を負う前提で、上限を設けるなら故意・重過失を除くことを明記する。 |
| 申告されなかった持病による事故 | 全部の免除にすると8条の審査を受ける。 | 「申告がなかったことにより生じた損害については、その限度で」責任を負わない、と限定する。 |
同意書の位置づけと、利用をお断りする期間
同意書は「リスクを説明し、納得のうえで参加してもらった記録」であって、店の安全配慮義務を消すものではありません。サインがあれば自己責任、という考え方は通りません。それでも、何を説明し、何に同意してもらったかが具体的に残っていれば、事故の際に双方の認識を確かめる土台になります。
利用をお断りする場面は、場面と期間をセットで書くと運用しやすくなります。事務所が作成したマシンピラティススタジオの利用規約では、他の人に感染するおそれのある病気がある方は医師に感染のおそれがないと診断されるまで、飲酒や薬物の影響がある方はその影響がなくなるまで、医師から運動を禁じられている方は医師が運動を許可するまで、と、利用を見合わせる期間の終わりを書いていました。いつまで利用できないのかが書いてあれば、お客様にも受付にも、再開の判断の基準がはっきりします。事務所が公開した記事でも、健康状態や病気を理由に利用を断る条文は、古いひな形の言い回しをそのまま使うと、今の感覚では配慮を欠いて見えることがある、と指摘しました。
手技の施術では、施術の対象としない症状や、行わない手技を同意書に書いておくことも、事前の説明の中身になります。行政の通知が示している危険な手技や受診を勧める場面は、医業類似行為との線引きで紹介しています。
申告がなかった事情、未成年・産前産後の受け入れ
既往症・服薬・妊娠・最近のけがの申告をお願いし、申告がなかった事情による事故の扱いを整理することはできます。ただし、申告違反を理由に事業者の責任を全部免れる書き方にすると、8条の審査を受けます。申告がなかったことで生じた損害に限って責任を負わない、という「その限度で」の書き方にとどめるのが基本です。
条文例
ご利用規約 第◯条(健康状態の申告と見合わせ)
1お客様は、ご利用の前に、当店所定の問診票により、既往症、服薬、妊娠の有無、最近のけがその他の健康状態を申告してください。
2担当者は、当日の体調確認の結果、発熱、飲酒後、急な痛みその他安全に実施できない事情があると判断したときは、セッションを見合わせ、又は内容を変更します。この場合、回数券は消化しません。
3お客様が事実と異なる申告をし、又は申告すべき事項を申告しなかったことにより生じた損害については、その限度で、当店は責任を負いません。
4当店は、当店又は担当者の故意又は過失によりお客様に損害を与えたときは、その損害を賠償します。ただし、当店に故意又は重大な過失がある場合を除き、賠償額は◯◯を上限とします。
第3項は「その限度で」に限定し、第4項は上限の適用から故意・重過失を除くことを条項の中で明らかにしています。
受け入れる層ごとの条件も、当日の口頭確認で済ませず、申込みの前提条件として書きます。FC本部の契約書では、利用者が未成年者である場合、加盟店は認定トレーナーにセッションの提供前に親権者その他の法定代理人の同意を確認させる、と定めました。未成年者が法定代理人の同意を得ずに結んだ契約は、取り消されることがあり(民法5条1項・2項)、回数券やコースの代金を受け取った後に取り消されれば返金の問題にもなります(回数券・月謝の返金ルール)。同意の確認は、契約の前提として位置づけます。産前産後の方については、医師の許可と本人の同意を利用の条件にするかを決めます。事務所が公開した記事でも、誰に・何を・いつまでに出してもらうかを分けて書くよう勧めています。回数券を家族や友人と共有できる整体院では、施術を受ける人ごとに問診と禁忌の確認を取る運用が欠かせません。
事故が起きたときの手順と記録を数字で決める
FC本部の契約書では、事故への備えを「事故が起きたら報告」で終わらせず、数字で決めました。認定トレーナーはセッションの前に既往症・健康状態の質問票への回答を求めて店舗で保管し、痛みや異常があれば直ちに中止、事故の際は救急対応と管理者・本部への報告を行います。死亡又は重篤な傷害の事故は遅くとも24時間以内に電話などで第一報、7日以内に事故の概要・原因・再発防止策の報告書を提出し、事故の記録(質問票・事故報告書・対応の経過)は発生日から5年間保存します。近隣の医療機関を把握して連携体制を整えるよう努めること、器具・設備を月1回以上点検して記録を保存し、不具合を見つけたら利用者の安全が確保されるまで使用を中止することも定めています。
記録を5年保存する理由は、人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償の請求権が、被害者が損害と加害者を知った時から5年間行使しなければ時効で消滅するとされているためです(民法724条1号・724条の2)。問診票や施術記録の保存期間を何年にするかは、この時効の期間と結びつけて決めると、根拠を説明しやすくなります。
事故の直後の動きも、手順として書いておきます。パーソナルジムの運営会社のガイドラインでは、事故・けが・体調不良・設備の故障のときの一次対応(救護、必要に応じた救急・警察への連絡、店への報告)、事故やミスを隠さないこと、お客様への賠償と保険の手続は店が行うことを定めています。トレーナーが一人で対応する時間帯のある店では、連絡先の一覧と、救急車を呼ぶ判断をためらわないことを、ガイドラインの冒頭に置いておくと実際に役立ちます。
ヒヤリングの問いと理由 同意書・免責条項を作る前の確認
- セッション中に身体に触れますか。どの部位を、どの方法で。同意書で事前に説明する内容と、触れてほしくない部位・担当者の性別の希望の申出の方法を決めます。
- 受け入れない方、医師の許可を求める方はどんな方ですか。その理由は。病名や年齢で一律に断るより、断る場面と理由を具体的に書きます。
- 利用をお断りした方が、いつから再開できるかを決めていますか。見合わせる場面と、その期間の終わり(医師の許可が出るまで、影響がなくなるまで等)をセットで書きます。
- 未成年者・産前産後の方を受け入れますか。保護者の同意・医師の許可を、申込みの前提条件として書くかを決めます。
- 施設賠償責任保険は、業務委託トレーナーの指導中の事故も対象ですか。免責条項より保険の補償範囲の確認が先です。
- 問診票・施術記録・事故の記録は、どこに何年保存しますか。人身損害の賠償請求権の時効の期間(損害と加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年)と結びつけて決めます。
よくあるご質問
「ケガは自己責任」と同意書に書けば、店は責任を負いませんか?
負わないことにはなりません。事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項は消費者契約法8条1項で無効です。同意書は、リスクを説明し納得のうえで参加してもらった記録であって、店の安全配慮義務を消すものではありません。
免責条項はどう書けば有効になりますか?
全部の免除はできません。賠償額の上限などで一部を免除するなら、「当店に故意又は重大な過失がある場合を除き」と条項の中で明らかにします(同法8条3項)。責任を負わない場面を定めるなら、お客様が管理する私物の紛失のように、店に責任のない場面に具体的に限定します。
持病のある方・妊娠中の方を受け入れる場合、医師の許可書は必要ですか?
法律で一律に決まってはいません。医師への相談を「お願い」にとどめるか、許可書の提出を利用の条件にするかを店が決めて、規約に書きます。条件にするなら、誰に・何を・いつまでに出してもらうかを具体的に書きます。
未成年の会員を受け入れるときに必要な書類は?
親権者その他の法定代理人の同意を、セッションの提供前に確認する手順を定めておきます。同意書の様式と、同意を確認したことの記録の残し方も決めておくと、後で確認できます。
施術を断る条件を年齢で決めてもよいですか?
禁止されてはいませんが、理由を併記しないと配慮を欠いた印象を与えることがあります。断る場面(発熱、飲酒後、急な痛み、医師から運動を止められているなど)と、その理由を具体的に書き、担当者が安全に実施できないと判断したら見合わせる形にする方が説明しやすくなります。
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