回数券・月謝・入会金の返金ルール

指定外の役務では法定の精算上限がありません。返金のルールは契約書で決まり、その中身を消費者契約法が審査します。

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翌月分を前払いで受け取り、退会は手続月の末日、返金なし。一つひとつは珍しくない定めでも、組み合わさると無効とされやすい形になります。

このページの要点

  • 解除に伴う違約金は平均的な損害を超える部分が無効(消費者契約法9条1項1号)。違約金と評価されなくても10条の審査がある。
  • 店の都合で提供できなかった分まで返さない定めは、民法の解除と原状回復の規定(542条・545条1項)との関係でも通りにくい。
  • 未使用分を返すなら、返金額の計算式と手数料の上限まで書く。算定根拠の説明(9条2項)にも使える。
  • 支払の遅れに対する違約金は年14.6%が上限(9条1項2号)。不可抗力でも前払い代金を返さなくてよいとは限らない。

結論:返金のルールは契約書で決まり、消費者契約法9条・10条が審査する

パーソナルジム・整体・ピラティスは特定継続的役務に指定されていないため(特定継続的役務提供の当てはめ)、法定の中途解約の精算上限(特定商取引法49条)はかかりません。返金のルールは、原則として契約書や利用規約に書いたとおりになります。ただし、その条項は消費者契約法の審査を受けます。

  • 9条1項1号:契約の解除に伴う損害賠償の予定・違約金は、解除の事由・時期などの区分に応じ、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき「平均的な損害」の額を超える部分が無効になります。未使用分を返さない定めは、解除に伴う違約金と評価されればこの規定の問題になります。
  • 9条2項:違約金などを請求する場合に、消費者から求められたら、算定の根拠の概要を説明するよう努めなければなりません。
  • 10条:消費者の権利を制限し又は義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効です。違約金と評価されない場合でも、未使用分の一律不返還はこの規定で争われ得ます。
  • 12条3項:不特定多数のお客様との契約で8条〜10条に当たる条項を使っていると、適格消費者団体(内閣総理大臣の認定を受けた消費者団体)から使用の差止めを請求されることがあります。

また、店の都合(休業・閉店・担当者の不在)で提供できなかった分まで返さない書き方は、民法の規定(店の側の事情で提供できなくなったときは、お客様は契約を解除して支払済みの代金の返還を求めることができる。542条・545条1項。双方に責任のない事由による場合も、お客様は代金の支払を拒むことができる。536条1項)との関係でも通りにくくなります。「返金なし」と書けば返さなくてよい、という発想は、指定外の役務でも成り立ちません。

最も紛争になりやすい組合せ:月謝の前払い+月末退会+返金なし

パーソナルジムの運営会社の案件で、トレーナー向け書類のレビューの過程で提供を受けた顧客向けの契約書には、次の定めが並んでいました。

  • 《会費について》翌月分を前月の最終セッションで前払いする。
  • 《退会規定》退会は手続をした月の末日とする。
  • 《返金について》返金制度はない。お客様都合のキャンセル分は返金しない。
  • 《退会規定》急な退会の際はキャンセル料金を頂く場合がある。無断キャンセル・連絡なし・規約違反による退会の場合も返金しない。

一つひとつは珍しくない定めですが、組み合わせると、翌月分を支払った後、同じ月のうちに退会を申し出たお客様は、サービスを一度も受けない翌月分の全額を返してもらえないことになります。事務所は補足報告書で、これを平均的な損害を超える部分として無効とされるおそれが高く、最も紛争になりやすい組合せと指摘しました。

顧客向け契約書の会費・返金・退会の定めと事務所の指摘
定め事務所の指摘見直しの方向(一般論)
翌月分の前払い+退会は手続月の末日+返金制度なし翌月分を支払った後、同じ月のうちに退会を申し出ると、サービスを受けない翌月分の全額が返金されない組合せになる。平均的な損害を超える部分として無効とされるおそれが高い。退会の効力が生じる日と前払いの対象期間を対応させ、提供しない期間の対価を一律に返さない形にしない。
「返金制度はない」店の都合(休業・担当の変更など)で提供できなかった場合まで返金を否定する書き方で、その限度で無効とされるおそれがある。お客様都合のキャンセルと、店の都合で提供できなかった場合を分けて書く。
「急な退会の際はキャンセル料金を頂く場合がある」金額・算定方法がなく、トレーナーがお客様に説明できない。請求するなら、金額又は算定方法と、その根拠を書く。9条2項の算定根拠の説明にもそのまま使える。
無断キャンセル・規約違反による退会でも返金しない規約違反などで退会させた後も前払い済みの会費を返さない定めも、同じ観点から問題になる。退会させる事由と、その場合の前払い済み会費の精算を分けて書く。

この指摘には補足があります。返金・キャンセル料・免責の定めに無効となる部分があると、トレーナーがその定めのとおりにお客様に説明すること自体が、店の説明として行われることになります。トレーナー向けのガイドラインで「返金や補償を約束しない」「退会・休会は店の定めによる」と決めても、その「店の定め」が無効な内容なら、ガイドラインの運用は成り立ちません(体験・入会の勧誘)。

整体の回数券:店の都合で続けられなくなったときの返金

個人で運営する整体院の回数券(6回券・10回券)の契約書を整えた案件では、依頼者の指定条件を反映した当初版に、「回数券の代金は、ご購入後の返金には対応しておりません。これは、お客様のご都合・当院の都合を問わず共通の取り扱い」「未使用分が残っていても返金の対象にはなりません」という定めがありました。有効期限は6回券が7か月、10回券が11か月で、家族・親戚・友人との共有を認めていました。

事務所の書類での改訂 整体院の回数券の返金と料金

店の都合による継続困難

原案
【当初版(依頼者の指定条件を反映)】お客様の都合・当院の都合を問わず返金しない。
改訂
依頼者との協議を踏まえ、返金は原則なしとしつつ、当院の都合によりサービスの継続が困難となった場合は、未使用の回数について残り回数分の半額を返金する特例を加えました。あわせて、回数券を使い切った後も1回あたりの回数券単価で施術を受けられる旨を加えました。

理由一人院では、施術者の病気やけがで長く施術できなくなることがあり得ます。その場合の扱いを先に決めておく意味があります。

料金の改定

原案
【当初版】定めなし。
改訂
依頼者の要望により、経済状況や運営コストの変動などで料金を改定する場合がある旨を、各回数券と通常料金の注記として加えました。

理由改定の留保は、既に購入された回数券の残りの回数には及ばないと明記しておくのが無難です。

一般論として、店の都合で提供できなくなった場合に「返さない」と書くことは、民法の解除と原状回復の規定(542条・545条1項)や消費者契約法10条との関係で通りにくい定めです。店都合の中止時の返金を書くこと自体に意味があります。そのうえで、返金額を未提供分の全額とするか、一部にとどめるかは、未提供分の対価をどこまで返すかの設計の問題で、一部にとどめる部分の合理性は争われ得ることを意識しておく必要があります。また、共有を認める回数券では、誰が施術を受けたかの記録と、施術を受ける人ごとの既往症の確認が欠かせません(けが・同意書と免責)。

入会金と未使用分の返金は「算式」で書く

パーソナルトレーニングと痩身機器を提供する店の依頼者原案は、入会金を「理由の如何を問わず返金されません」とし、回数券の未使用分の返金は「所定の申請書」で申請し、「返金の可否および金額は、当社の確認を経て決定」、振込手数料を差し引く、契約解除時の返金も「未使用分の回数券についてのみ」としていました。改訂では、料金表を本文から外してコースごとの記入欄とし、入会金の額を依頼者の料金体系に合わせています。

入会金は、入会の手続・会員登録の対価という性格を説明できれば、返金しないことにも合理性を説明しやすくなります。ただし、金額が大きい場合や、店の都合による解除まで一律に返さない場合は、9条1項1号や10条で争われ得ます。また「返金の可否と金額は当社が確認のうえ決定」という書き方は、返金するかどうかを店が一方的に決められると読め、お客様には何の目安にもなりません。未使用分を返すなら、返金額の計算式まで書いておくと、9条2項の算定根拠の説明にもそのまま使えます。

条文例

利用規約 第◯条(回数券の返金の計算)

1お客様がご契約を解除したときは、当店は、次の計算式により算出した額を返金します。返金額=お支払いいただいた回数券の代金−(ご利用済みの回数×ご購入時の1回あたりの単価)−返金手数料(◯円。ただし、返金額の◯パーセントを上限とします。)

2前項の「1回あたりの単価」は、回数券の代金を回数で割った額とします。通常料金の1回分の額に引き直して計算することはしません。

3当店の都合(休業、閉店、担当者の長期の不在その他当店の責めに帰すべき事由をいいます。)によりサービスの提供を続けられなくなったときは、第1項の返金手数料を差し引きません。

4返金は、解除の申出を受けた日から◯日以内に、お客様の指定する口座への振込みにより行います。

「通常料金で引き直す」計算は、割引を受けたお客様ほど返金額が小さくなり、実質的に解除に伴う違約金と評価されやすくなります。手数料の額と上限、店都合の場合の扱いを分けて書いておくと、根拠の説明がしやすくなります。

プログラム型の中途解約と、終了事由ごとの精算

整体の6か月・12回のプログラムの依頼者原案は、中途解約を書面又は電子メールで申し出るものとし、返金額=支払済みの金額−(消化済みの施術回数×1回あたりの単価)−(その差額×一定割合の解約手数料)、振込手数料はお客様の負担、としていました。プログラムの総額を回数で割った単価と、消化分を差し引く単価が一致している点は、計算式として明快です。論点は、解約手数料の割合が平均的な損害の範囲といえるか(9条1項1号)、無料延長の対象になったお客様が途中で解約したときに消化回数をどう数えるか、成果基準に届かなかったときの有料のメンテナンス施術との関係をどう整理するかでした。

同じ原案には、標準6か月・12回で、事業者所定の成果基準に届かず無料延長の要件(施術の間隔、キャンセルポリシーの遵守、事業者が継続可能と判断すること)を満たせば最大16回・8か月まで無償で延長し、①成果基準への到達を事業者が判断したとき、②初回から8か月が経過したとき、③16回を受けたとき、④他の施術機関で施術を受けて身体の状態が顕著に悪化し改善の見込みが乏しいと事業者が判断したとき、に通知の有無にかかわらず当然に終了し、お客様は異議や請求をしない、という定めもありました。

プログラム型の終了事由と、決めておくこと(一般化)
終了事由未消化の回数が残るか決めておくこと
成果への到達による早期終了残る残りの回数分を返金するのか、成果報酬型の対価として返金しないのか。しないなら、その対価の設計を契約時に説明できるか。
期間の経過残ることがある期間に対する対価なのか、回数に対する対価なのか。お客様の来院が途絶えた場合と、店の予約枠が取れなかった場合を分けるか。
回数の到達残らない延長分の回数の扱い(無償の特典か、本来の提供回数か)。
事業者の判断による終了残る判断の基準と通知。返金しないなら、その理由。事業者の一方的な判断だけで終了し返金もしない設計は、10条の審査を受けやすい。

「成果保証」「無料延長」をうたう広告は、成果基準の中身を示さないと、表示の面でも問題になり得ます(効果表示)。

不可抗力・閉店、支払の遅れの扱い

同じプログラムの原案は、不可抗力で相当期間提供が困難と事業者が判断すれば通知して解除でき、「解除に伴う損害賠償または返金義務は負わない」とし、これは民法536条1項の原則を前提とする、と書いていました。痩身機器の店の原案にも、不可抗力で提供が一時的又は恒久的に困難となった場合は店が履行の責任を免れる、という条項がありました。

民法536条1項は、当事者双方の責めに帰することができない事由で債務を履行できなくなったときに、債権者(お客様)が反対給付(代金の支払)を拒むことができるという規定です。前払いで受け取った代金を事業者が返さなくてよいことまでを定めたものではありません。「不可抗力なら返金しない」と言い切る前に、未提供分を返金するのか、振替や期間の延長で対応するのかを決めて書くことが必要です。

店が承諾した分割払い(店が自ら代金を分けて受け取る方式)では、支払の遅れへの備えも契約書に置きます。整体のプログラムの原案は、遅延時に年14.6%の遅延損害金と完済までの役務の停止、2回以上の不払いで残額の一括請求を定めていました。消費者契約で支払の遅れに対する損害賠償の予定・違約金を定める場合、年14.6%を超える部分は無効です(消費者契約法9条1項2号)。役務を停止するなら、いつから・何日の催告を経て停止するか、停止中も有効期限が進むのかを書いておかないと、停止そのものが争いの種になります。

有効期限の長さ、回数券の共有、料金の改定

回数券の有効期限は、店の運営(予約枠の確保、価格の改定の周期)と、お客様の通う頻度から決めるのが基本です。期限で失効させる定めを置くなら、期限内に使えなかった理由が店の側にある場合(予約が取れない、休業していた)の扱いを分けて書きます(キャンセル・休会・退会)。

前払いで回数券を発行する場合は、資金決済法の前払式支払手段(証票や番号などで発行され、役務の数量に応じた対価を得て発行されるもので、役務の提供を請求できるもの。同法3条1項2号)に当たるかの確認も必要になることがあります。自家型の前払式支払手段は、基準日の未使用残高が基準額を超えると届出が必要になります(同法5条)。他方、発行の日から6か月以内に限り使用できるものは同法の規定が適用されません(同法4条2号、施行令4条2項)。もっとも、紙の契約書で「6回分の施術を受けられる」と定めることが「証票等」の発行に当たるかは個別の確認事項で、FC本部のレビューでも、発行者・利用先・有効期限・未使用残高を確認し、全店共通の券にする場合は単独店舗の券と同じ前提で処理しないよう指摘しています。有効期限はこうした確認と運営上の理由を合わせて決めるもので、期限の長さを短くすることだけで問題がなくなるわけではありません。

条文例

利用規約 第◯条(料金の改定)

1当店は、経済状況の変動、運営費用の増加その他の事情により、料金を改定することがあります。この場合、当店は、改定の内容と適用の開始日を、適用の開始日の◯日前までに店内の掲示及び公式アカウントでお知らせします。

2料金の改定は、改定の適用の開始日以後にお申込みいただく契約に適用します。既にご購入いただいた回数券の残りの回数、及び既にお支払いいただいた期間の会費には適用しません。

3回数券を使い切った後に通常料金でご利用いただく場合の料金は、ご利用の時点の料金によります。

整体院の回数券の案件で依頼者の要望により加えた「料金を改定する場合がある」旨の注記を、条文の形に一般化した例です。既に購入された回数券に及ばないことを明記しておくと、改定のたびの問合せに答えやすくなります。

回数券の共有を認める場合は、誰がいつ利用したかを残す仕組みが要ります。回数券の名義人と実際に施術を受けた人を予約の記録に分けて記入し、施術を受ける人ごとに問診票を取ります。共有を認めるかどうか、認めるなら誰まで(同居の家族、親族、友人)かを利用規約に書いておけば、受付での説明も一定になります。

事務所が公開した記事でも、ピラティススタジオなどの利用規約には、都度払い・回数券・月謝が混在しているのに「回数券は期限で失効」「月謝は使わない月も繰り越さない」「休会なし」「支払い済みの費用は理由を問わず返さない」と言い切るだけのものが多い、と指摘しました。「いつまで使えるか」「期限が来たらどうなるか」「途中でやめたらどう精算するか」を、料金の種類ごとに分けて書くことが、利用規約を読んだお客様の疑問に答える最短の方法です。

ヒヤリングの問いと理由 返金ルールを作る前の確認

問いなぜ聞くか
  1. 料金の種類は何がありますか(入会金・月謝・回数券・コース一括・都度払い)。
    種類ごとに「いつまで使えるか」「途中でやめたらどう精算するか」を分けて書きます。
  2. 月謝は前払いですか。退会の効力はいつ生じますか。
    前払いと退会日の組合せで、提供しない期間の対価を取る形になっていないかを確認します。
  3. 店の都合で提供できなくなったとき、返金しますか、振替にしますか。
    店都合の扱いを先に決めておくと、残りの定めの合理性を説明しやすくなります。
  4. 分割払いを店が自ら受けていますか。
    遅延損害金の率(年14.6%以内)と、役務の停止の手順を書きます。

よくあるご質問

回数券の未使用分は、返金しないと書いておけば返さなくてよいですか?

そうとは限りません。未使用分の一律不返還は、解除に伴う違約金と評価されれば平均的な損害を超える部分が無効になり(消費者契約法9条1項1号)、そうでなくても消費者の利益を一方的に害する条項として争われ得ます(同法10条)。返金額の計算式と手数料の上限を書いておく方が、説明しやすくなります。

月謝を前払いでもらっています。月の途中で退会されたら返金が必要ですか?

退会の効力が生じる日以降の期間に対応する会費まで返さない形になっていないかが問題です。翌月分を前払いで受け取り、退会は手続月の末日、返金なし、という組合せは、サービスを受けない翌月分を返さないことになり、無効とされるおそれが高い組合せです。

入会金を返金しないことはできますか?

入会の手続・会員登録の対価という性格を説明できれば、返金しないことにも合理性を説明しやすくなります。ただし、金額が大きい場合や、店の都合による解除まで一律に返さない場合は争われ得ます。キャンペーンで免除した入会金を途中解約で請求するなら、その条件を申込時に示しておきます。

閉店・移転するとき、回数券の残りはどうすればよいですか?

店の都合で提供できなくなった分は、返金するか、移転先・提携先での利用など振替の方法を示すのが基本です。店の都合でも返さない定めは、民法の解除と原状回復の規定(542条・545条1項)や消費者契約法10条との関係で通りにくくなります。

回数券の有効期限は何か月にすべきですか?

法律で決まった長さはありません。お客様の通う頻度、予約枠の確保、価格の改定の周期から決めます。前払いで発行する回数券は、資金決済法の前払式支払手段に該当するかを確かめる必要が生じることがあり、有効期限はその確認と運営上の理由を合わせて決めます。

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