このページの要点
- ビフォーアフターや「○kg減」は、期間・食事指導の有無・個人差を併記し、根拠資料を店が保管する(景品表示法5条1号・7条2項)。
- トレーナー個人のアカウントでの宣伝は事前の承諾と広告であることの明示。店のアカウントは店名義・店の権限にする。
- 口コミの報酬は、依頼のしかたと禁止行為を理由とともにトレーナー向けの書面に書く。
- 契約終了後の肖像の扱い(新たに使わない・一定期間内の削除)を決めておく。
結論:「痩せる」の表示の主体は店。根拠資料を保管し、条件を併記する
パーソナルジムの集客では、「2か月で−10kg」「ビフォーアフター」「お客様の声」がよく使われます。こうした表示は、景品表示法の規制の中心にあります。そして、トレーナーが作った投稿でも、トレーナーの個人アカウントからの宣伝でも、店が表示の内容の決定に関与していれば、表示の主体は店です。このページでは、効果表示・口コミ・SNSのルールを、トレーナーとの契約書とガイドラインにどう落とし込んだかを紹介します。
押さえておく条文:優良誤認・有利誤認・合理的な根拠・課徴金
| 条文 | 内容 | ジム・整体での場面 |
|---|---|---|
| 景品表示法5条1号(優良誤認) | 役務の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示す表示 | 「誰でも2か月で−10kg」「必ず姿勢が改善」 |
| 同法5条2号(有利誤認) | 価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると誤認される表示 | 「今だけ入会金無料」が実際には常時の条件 |
| 同法5条3号(内閣総理大臣の指定) | 一般消費者に誤認されるおそれのある表示として指定されたもの。事業者の表示であることが判別しにくい表示(いわゆるステルスマーケティング)が指定されている | トレーナー個人のSNSでの宣伝、関係者の口コミ投稿 |
| 同法7条2項(合理的な根拠) | 消費者庁が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求め、提出されなければ優良誤認表示とみなされる | ビフォーアフターの根拠資料を保管していない |
| 同法8条(課徴金) | 5条1号・2号の違反について、対象の売上額の3%(10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者が繰り返した場合は4.5%。同条5項)の課徴金 | 効果表示・価格表示の違反 |
ステルスマーケティングの指定は、令和5年内閣府告示第19号によるものです。
ビフォーアフターの写真や「○kg減」の表示をするなら、少なくとも期間・食事指導の有無・効果に個人差があることを併記し、表示の根拠となる資料(いつ・誰の・どのような条件での結果か)を保管しておくことが基本になります。根拠を示せなければ、表示の内容が実際にどうであったかにかかわらず、優良誤認表示とみなされ得るからです。
取引条件の表示も同じです。国民生活センターが公表したパーソナルトレーニングの相談類型には、途中で解約したら割引がなくなり入会金を請求された、というものがあります。「入会金無料」「初月半額」を大きく打ち出しながら、継続の条件や途中解約時の扱いを小さな字でしか示していないと、広告の側でも有利誤認表示の問題になり得ますし、契約の側でも条件を示していなかったことが争いの種になります。広告の表示と、申込書に書く特典の条件は、同じ内容でそろえておきます(入会特典の適用条件)。
効果表示の基準を、トレーナー向けガイドラインに置く
パーソナルジムの運営会社の案件では、依頼者原案の業務委託契約書が、SNS投稿・店内のPOP制作をトレーナーの業務とし、制作物の著作権をトレーナーから店に譲渡する定めを置いていました。事務所は、著作権の譲渡について、翻案権など(著作権法27条)と二次的著作物の利用に関する権利(同法28条)を譲渡の目的として特掲しており、法の要件を満たしていると評価しました。特掲がなければ、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定されるからです(同法61条2項)。一方で、効果表示の基準はありませんでした。
回答で、ビフォーアフターの写真や減量の効果の表示は使っていない、物販はなくサプリメントなどを勧めることもない、と分かりました。懸念は小さいものの、将来使う場合に備えて基準を置くことにしました。
条文例
トレーナー業務ガイドライン 第◯項(効果を示す投稿)
1減量その他のトレーニングの効果を示す投稿(ビフォーアフターの写真を含む。)をする場合は、事前に会社の確認を受け、会社がその根拠となる資料を保管するものとし、期間、食事の指導の有無及び効果に個人差があることを併記する。
2疾病の治療又は予防等の医学的な効果を示す投稿をしてはならない。
ガイドラインの改訂版に置いた文言です。投稿の前に店が確認する手順と、根拠資料を保管するのが店であることを明記しています。
トレーナー個人のアカウントと、店舗アカウントの名義
同じ案件で事務所が指摘したのは、二つの名義の問題です。一つは、トレーナーが店の依頼で個人のアカウントからキャンペーンを紹介すれば、ステルスマーケティングの規制の対象になり得ること。もう一つは、店舗のSNSアカウントや地図サービスの事業者プロフィールの名義・オーナー権限・ログイン情報の定めがないことでした。トレーナーがオーナーになっていると、契約が終わった後、店は投稿も口コミへの返信も管理できなくなります。回答では、投稿は店舗の公式アカウントに限り、オーナー権限は役員が持っていることが確認できました。
事務所の書類での改訂 宣伝の投稿とアカウントの名義
個人アカウントでの宣伝
理由店の依頼による個人アカウントの投稿は、店の表示として扱われ得ます。
店の管理するアカウント
理由終了後に店がアカウントを管理できなくなる事態を防ぎます。
FC本部の案件でも、加盟店専用のランディングページについて、ドメインの取得費用・サーバーの利用料などの実費は加盟店の負担、契約の名義は加盟店、終了時は本部の求めに応じて移転又は廃止に協力する、と定めました。SNS・地図サービス・ウェブサイトといった集客の資産は、契約書で「誰の名義か」「終了や譲渡のときにどう移すか」を決めておく対象です(店舗の譲渡とアカウントの移転)。
口コミの報酬は、依頼のしかたと禁止行為を具体的に
同じパーソナルジムの依頼者原案には、地図サービスの口コミ1件につき一定額をトレーナーに支払う制度がありました。契約書の別紙には、高評価の指定・投稿の強制・代筆・架空の投稿・お客様への利益の提供と引換えの依頼の禁止がありましたが、トレーナーが日常的に見るガイドラインには書かれていませんでした。
消費者庁は2024年6月、地図サービスに星5又は星4の投稿をすることを条件に費用を割り引いていた医療法人に対し、ステルスマーケティングの告示に基づく措置命令を行っています。また地図サービスのポリシーも、投稿と引換えのインセンティブ、肯定的な口コミだけを選んで募ること、雇用や契約の関係にある者の投稿を禁じています。事務所は次の点を指摘しました。
- トレーナー本人・家族・知人の投稿は報酬の対象から除き、禁止する。
- 依頼のしかたを中立にする。すべてのお客様に同じ方法で、評価の内容を指定せず、投稿は任意であると伝える。高評価が見込まれるお客様だけに依頼しない。
- トレーナーが報酬の一部をお客様に還元すれば、ポリシー違反になるうえ、事業者の表示と評価されるおそれがある。
- ポリシー違反で口コミが削除された場合の報酬の扱いを決める。
条文例
トレーナー業務ガイドライン 第◯項(口コミの依頼)
1トレーナーは、口コミの投稿を依頼するときは、すべての顧客に同じ方法で依頼し、評価の内容を指定せず、投稿するかどうかは顧客の自由であることを伝える。
2トレーナーは、次に掲げる行為をしてはならない。一 高い評価が見込まれる顧客にだけ依頼すること 二 投稿と引換えに、割引、物品その他の利益を顧客に提供し、又は約束すること 三 自ら、又は家族、知人その他の関係者に依頼して投稿すること 四 顧客に代わって投稿の文章を作成すること
3前項の行為は、景品表示法に基づくいわゆるステルスマーケティング規制や、口コミを掲載するサービスのポリシーに違反するおそれがあり、口コミが削除される原因にもなる。
改訂版の内容を、条文例の形に一般化したものです。禁止行為に理由を添えている点が、日常的に参照される書面での工夫です。
ガイドラインの改訂版では、依頼の方法と禁止行為を列挙し、「依頼のしかたの禁止行為は、景品表示法に基づくいわゆるステルスマーケティング規制や、地図サービスの口コミに関するポリシーに違反するおそれがあり、口コミが削除される原因にもなる」という趣旨の理由を付けました(原文では地図サービスの名称を挙げています)。禁止の理由が書いてあれば、トレーナーも納得して守りやすくなります。報酬の対象外(同じお客様の削除・再投稿、支払の前に削除が確認されたもの)と、支払の後に削除されても禁止行為に違反したものを除き返還を求めないことも定めています。なお、口コミの報酬の扱いについては、改訂の過程で依頼者の判断により従前の別紙の方式に戻した部分もあります。制度を続けるかどうかは店の判断で、事務所の役割は、続けるなら守るべき線を書面にすることでした。
トレーナー本人の肖像と、契約終了後の投稿
リール動画などには、トレーナー本人が写っているのが普通です。著作権を譲り受けていても、トレーナー本人の肖像は著作権とは別の権利で、店が自由に使えるわけではありません。契約が終わった後に「自分が写っている投稿を消してほしい」と求められたとき、店に拒む根拠がなく、近くで独立した元トレーナーの姿が店のアカウントに残っていると、今も在籍しているとの誤認にもつながります。
条文例
トレーナー業務委託契約書 第◯条(肖像を含む制作物の利用)
1会社は、本契約の有効期間中、本業務の目的の範囲内で、乙の肖像を含む制作物を利用することができます。
2会社は、本契約の終了後、乙の同意なく、乙の肖像を含む制作物を新たに広告に使用しません。
3本契約の終了前に投稿された制作物について乙から削除の求めがあったときは、会社は、事業に著しい支障がない限り、求めを受けた日から30日以内に、乙の肖像が主として写っている投稿を削除します。
改訂版に置いた内容を条文例の形にしたものです(会社=店、乙=トレーナー)。終了前の投稿をすべて消すのではなく、「肖像が主として写っている投稿」に限っている点が実務上の落としどころです。
お客様の写真については、個人情報の利用目的と、掲載の同意が問題になります。利用目的に広告・SNS掲載がないまま掲載すれば目的外の利用・第三者への提供の問題になるので、媒体・目的・期間・撤回の方法を特定した同意を別に取ります(個人情報の取扱いの書面)。少なくとも次の四つを特定しておくことをお勧めします。
| 項目 | 内容 | 特定しないと起きること |
|---|---|---|
| 媒体 | 店のウェブサイト、SNSの公式アカウント、店内の掲示、チラシなど | お客様が想定していない媒体に載り、苦情や削除の求めにつながる。 |
| 目的 | トレーニングの効果の紹介、店の雰囲気の紹介など | 利用目的の範囲を超えた利用として問題になる。 |
| 期間 | 掲載を続ける期間、又は撤回まで | いつまで載せてよいかが分からず、古い写真が残り続ける。 |
| 撤回の方法 | 撤回の申出の窓口と、削除までの期間 | 撤回されたときの対応が人によって変わる。 |
顔が写らない写真でも、体型や身体の特徴から本人が分かることがあります。顔の有無にかかわらず同意を取る扱いにしておくのが無難です。
FC本部の案件では、初号店に本部のブランディングへの協力をお願いする際、お客様の写真や声を本部の広告に使う場合に加盟店とお客様の間の同意の範囲を超えないよう、「顧客情報を含まない範囲」での写真・紹介文などの提供協力に限定しました。
サプリメント・食事指導の表示
食品として販売する物について、健康の保持増進の効果などに関し、著しく事実に相違する表示や著しく人を誤認させるような表示をすることは禁じられています(健康増進法65条1項)。医薬品などの効能・効果について虚偽・誇大な広告をすること(医薬品医療機器等法66条)や、承認を受けていない医薬品の名称・効能・効果を広告すること(同法68条)も禁止です。サプリメントに「脂肪を燃やす」「病気を予防する」と書けば、医薬品的な効能効果の表示として問題になり得ます。
パーソナルトレーニングと痩身機器の店の依頼者原案は、役務として、トレーニングに付随する食事管理及び生活習慣改善のアドバイス、初回カウンセリング・目標設定・進捗確認、美容目的・ダイエット支援の指導プランなどを挙げていました。食事指導は「アドバイス」の範囲にとどめ、疾病の治療や食事療法と誤認させない書き方にします(医師法17条の観点。医業類似行為との線引き)。サプリメントや食品を販売するなら、その表示の基準を別に定めます。
本部・店がSNSを管理する範囲と、ブランドを傷つける行為への備え
FC本部のひな型には、本部の資料の第三者への開示・複製の一律禁止、独自のサービス・類似のメソッドの開発販売の禁止、事前の承認のないSNS投稿・価格変更の禁止が並んでいました。事務所は、通常の店内での利用やトレーナー教育に必要な複製・共有まで禁止される可能性があること、SNS・広告の審査はロゴ・表示・安全・誤認表示に絞り、定型の投稿は包括的に承認し、回答の期限を設けること、メソッドという抽象的なアイデア自体に著作権の独占が当然に認められるわけではないことを指摘しました。「全部事前承認」より、審査の観点と回答期限を決める方が、実際に回ります。
同じ指摘の中で、教材は認定スタッフに必要な範囲での利用を許し、秘密保持とアクセスの制御を付けること、類似のメソッドの禁止は、加盟店が独自に開発したものや一般的な技能を除いたうえで、秘密のノウハウの不正な利用を具体的に禁止する形にすることも示しました。トレーナーとの業務委託契約でSNSの投稿を管理する場合も、店のロゴや店名の使い方、効果表示、お客様の写真の扱いに絞って事前確認を求め、トレーナー個人の発信のすべてを店が承認する形にはしない方が、業務委託としての説明とも整合します(業務委託契約と労働者性)。
ご相談と回答 FC本部
ブランドや本部のイメージを大きく損なう状況になったら、別途損害金を請求したいのですが、具体的な状況がイメージできません。
損害賠償の上限(直近1年のロイヤリティ総額)は故意・重大な過失の場合には適用されないため、反社会的勢力との関係、虚偽の実績表示、重大な事故の隠蔽、SNS上での不適切な発信といった行為の多くは、既に上限なしで請求できます。想定する行為が明確であれば、禁止行為として列挙し、無催告解除の事由に加えることができます。「ブランドイメージを損なう」という抽象的な基準だけを違約金の要件にすると、該当するかどうかで紛争が長引きやすいため、現時点では新設しない形をお勧めしました(依頼者の判断で確定)。
ヒヤリングの問いと理由 効果表示・SNSのルールを作る前の確認
- ビフォーアフターや減量の数字を表示していますか。今後使う予定はありますか。使うなら、期間・食事指導の有無・個人差の併記と、根拠資料の保管の手順を決めます。
- トレーナーが個人のアカウントで店の宣伝をすることはありますか。あるなら事前の承諾と、広告であることの明示を求めます。
- 店のSNS・地図サービスのアカウントの名義とオーナー権限は誰が持っていますか。店が持ち、トレーナーには必要な範囲の権限を与えて終了日に削除します。
- 口コミの獲得に報酬や特典を出していますか。依頼の方法と禁止行為を、トレーナーが日常的に見る書面に理由とともに書きます。
- サプリメントや食品を販売・推奨していますか。健康増進法・医薬品医療機器等法の表示の基準を別に定めます。
よくあるご質問
ビフォーアフター写真を掲載するときに必要なことは?
写真のお客様から、媒体・目的・期間・撤回の方法を特定した掲載の同意を取ります。表示には期間・食事指導の有無・効果に個人差があることを併記し、表示の根拠となる資料を保管しておきます。根拠を示せないと優良誤認表示とみなされ得ます。
口コミを書いてくれたお客様に次回割引をしてもよいですか?
投稿と引換えの特典は、事業者の表示であることが分かりにくい口コミを生み、ステルスマーケティングの規制や地図サービスのポリシーとの関係で問題になり得ます。高評価を条件に割り引いた医療法人に措置命令が出た例もあり、依頼する場合も評価の内容を指定せず、投稿は任意と伝える方法にとどめます。
トレーナーに口コミ獲得の歩合を払ってもよいですか?
制度を設けるなら、トレーナー本人・家族・知人の投稿を対象から除いて禁止し、すべてのお客様に同じ方法で依頼する、報酬をお客様に還元しない、などの禁止行為と理由を、トレーナーが日常的に見るガイドラインに書いておきます。
辞めたトレーナーから写真の削除を求められたら?
契約に定めがなければ、店に拒む根拠が乏しいのが通常です。終了後は新たに広告に使わない、終了前の投稿は事業に著しい支障がない限り一定期間内に「肖像が主として写っている投稿」を削除する、と契約で決めておくと対応が一定になります。
ジムでサプリを販売する場合の表示の注意点は?
健康の保持増進の効果などについて著しく事実に相違する表示や著しく人を誤認させる表示は禁止され(健康増進法65条)、医薬品的な効能効果を書けば医薬品医療機器等法の問題になり得ます。トレーナーが口頭で効果を断定しないことも、ガイドラインに書いておきます。
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