このページの要点
- 撮影の禁止は場所と行為を分けて書く。更衣室等と出入口付近は例外なく禁止し、機器の取り上げや強制削除はしないと明記する。
- 女性専用の例外や性自認への配慮は、方針・窓口・代替を決め、規約・予約画面・掲示の言葉をそろえる。
- 身体に触れる指導は、事前の説明と触れてほしくない部位の申出を書く。連絡先の禁止は会員とトレーナーの双方に置く。
- カスハラは内容と手段を分けて見て、段階を書く。利用停止時は提供済みと未提供を分けて精算し、記録の個人情報も管理する。
結論:更衣室とシャワーは「見られない設計」で、会員からの迷惑行為は「線引きと中止の権限」で守る
ジムの更衣室・シャワー室の盗撮と、会員から従業員やトレーナーへのカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。顧客等の言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境を害するもの)は、別の話に見えて、規約の組み立ては共通しています。どちらも、禁止する行為を具体的に書く、疑いが出たときに現場の誰が何をしてよいかを決める、処分の段階と精算の方法まで書く、の三つが骨組みです。ジムには、着替えの場所があること、トレーナーが会員の身体に触れる指導があること、回数券や月会費という前払いのお金が絡むことという、他の業種と違う事情が加わります。
2026年10月1日から、顧客等の言動に起因する問題に対して、事業主が雇用する労働者の就業環境が害されないよう体制を整える義務が、労働施策総合推進法の令和7年の改正で定められました。従業員を雇うジムはこの義務の対象で、業務委託のトレーナーは対象外です。この違いを踏まえた書き方は、後の節で整理します。
このページが扱うのは、ジムの規約・掲示・契約書に何を書き、運用で何を決めるかです。規約全体の条の並べ方や休会・除名・変更は利用規約の作り方のページ、免責の書き方は同意書と免責条項のページ、カルテや防犯カメラの映像の扱いはカルテと健康情報のページで扱っています。ここでは更衣室・シャワーの安全、性別への配慮、会員から働く人への迷惑行為に絞ります。
盗撮を防ぐ:撮影の禁止は、場所と行為を分けて書く
更衣室・シャワー室の盗撮を防ぐ規約の第一歩は、「撮影禁止」と一言で済ませず、どの場所で、何を禁じるかを分けて書くことです。会員はフォームの確認のためにスマートフォンで自分を撮影することがあり、全面禁止は実態に合いません。かといって広く認めると、更衣室のそばでの撮影を止める根拠がなくなります。場所と行為を分ければ、止める根拠と認める範囲の両方が説明できます。
撮影を一律に禁止する場所と、条件付きで認める場所
| 場所 | 扱い | 理由と書き方のポイント |
|---|---|---|
| 更衣室・シャワー室・トイレ・パウダールーム | 撮影・録音を禁止。機器を手に持った使用も禁止する | 着替えの状態が前提の場所で、他の会員の同意を取れる場面がない。例外を置かない書き方が説明しやすい |
| 更衣室などに通じる通路・出入口付近 | 撮影を禁止(画角に更衣室の出入りが入るため) | 更衣室の中でなくても、出入りの様子が映る。扉の開閉時に内部が映り込む位置も含める |
| トレーニングエリア | 自分のフォーム確認のための撮影は、他の会員が映り込まない範囲で認める | 映り込みの有無で線を引き、映った場合の削除の求めに応じることを書く |
「認める場所」と「禁止する場所」を表にして掲示し、規約にも同じ区分で書きます。
規約で禁止することと、犯罪になるかどうかは、別の問題です。人の性的な部位や下着などを、正当な理由がないのにひそかに撮影する行為は、いわゆる性的姿態撮影等処罰法の撮影罪(同法2条)の対象で、法務省の資料では法定刑が3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金とされています。ただし、犯罪にあたるかは撮影された内容や状況で判断されます。規約は「ここでは撮らない」という契約上のルール、刑罰法規は行為そのものの線と分けておけば、規約違反にとどまる撮影でも、運営者は止められます。
条文例
利用規約 第◯条(更衣室等における撮影の禁止)
1会員は、更衣室、シャワー室、トイレ、パウダールームその他当社が掲示で指定する場所(以下「更衣室等」という。)及びその出入口付近において、撮影、録音又はこれらの機能を備えた機器の操作をしてはならない。
2会員は、更衣室等以外の場所で撮影をする場合には、他の会員、スタッフその他の第三者が映り込まないようにしなければならない。他の者が映り込んだときは、その者又は当社の求めに応じて、直ちに当該部分を削除し、又は撮影をやめる。
3当社は、前二項に違反するおそれがあると合理的に認められる会員に対し、撮影した画像等の提示を求め、利用の中止を求め、又は退館を求めることができる。当社は、会員の機器を取り上げ、又は会員に代わって画像等を削除することはしない。
4当社は、第1項に違反した会員に対し、利用の停止又は会員資格の取消しの措置を講ずることができる。この場合の料金の取扱いは、第◯条(利用停止の場合の精算)による。
第3項は、運営者ができることとできないことを分けて書いた例です。機器の取り上げや強制的な削除を前提にした条項は、実際には使えず、使えない条項を置くと規約全体の信頼が下がります。
運営者の側がカメラを付けるときは、更衣室の内側と出入口の画角に注意する
盗撮を防ぐ目的でも、更衣室・シャワー室の内部へのカメラ設置は、プライバシーへの影響が大きすぎ、避けるべきです。問題になりやすいのは、内部にはなくても、通路や出入口を映すカメラの画角に、扉が開いたときの更衣室内部が映り込む場合です。設置後は実際の映像を確認して映り込みを点検し、あれば位置や角度を変えます。映像は個人情報に当たり得るため、利用目的を掲示と規約の両方で示します(映像の扱いはジムのカルテと健康情報の扱いでも整理しています)。
運営者の側の盗撮対策:機器の定期点検と、スタッフ・トレーナーの取り決め
会員の盗撮を防ぐだけでなく、運営者は自らの設備に不審な機器が仕掛けられていないかを確認する役割も負います。点検は清掃のついでだと形骸化しやすいので、頻度、手順、記録を決めます。不審な機器を見つけたときは、触らずに位置を写真で記録し、警察に連絡する、と手順にしておくと、現場で迷いません。
もう一つ、見落とされやすいのがスタッフやトレーナーの側の取り決めです。更衣室・シャワー室に入れるのは誰か、入るときは何をするか(声掛け、入室の理由、複数名での確認)、スマートフォンを持ち込んでよいか、を決めます。清掃、設備の修理、倒れた会員の救護のように、異性のスタッフが入る必要が生じる場面は例外として認め、手順(事前の声掛け、二人以上での入室、入室の記録)を文書にして渡します。業務委託のトレーナーとの契約書にも、更衣室等でのスマートフォンの使用禁止と入室の手順を入れておきます(パーソナルトレーナーの業務委託契約書のページ)。
疑いが生じたとき:取り上げず、消させず、離して、記録する
実際に起きるのは、「あの会員が更衣室の近くで不自然にスマートフォンを構えていた」と他の会員から申告された、という疑いの段階であることが多いものです。運営者は、スマートフォンの取り上げや、画像のその場での削除はできません。できるのは、申告した会員と疑われた会員を離すこと、撮影の有無を尋ねて画像の提示をお願いすること、応じなければ退館をお願いすること、疑いが強いときは警察へ連絡するかを管理者が判断することです。印象にとどまるときは、犯人と決めつけず、規約の条を示して機器の操作が禁止であることを伝え、日時・場所・見たことを記録して見回りを増やします。
更衣室・シャワー室を性別でどう分けるか:女性専用、時間帯、個室、性自認への配慮
更衣室とシャワー室の分け方は、ジムの業態で大きく変わります。男女別の更衣室を置く総合型のジム、女性専用のジム、更衣とシャワーが完全個室のパーソナルジム、時間帯で利用者を分けるジムです。分け方は運営者が決める事項ですが、決めた方針が規約・予約画面・掲示でそろっていないと、苦情の原因になります。
「原則として女性を対象とする」と書くとき、例外の書き方が決め手になる
実務では、「当スタジオは原則として女性を対象とした利用施設として運営されている。ただし、会員の配偶者、扶養家族、又は当スタジオが個別に認めた男性利用者はこの限りでない」といった書き方が見られます。運営に柔軟性を持たせる一方、例外の基準が示されていないと、女性専用を理由に入会した会員から「聞いていた話と違う」という苦情を受けやすい書き方です。
直し方は三つあります。第一に、例外を認める条件を書くこと(例えば、会員の同伴であること、利用できる時間帯、更衣室等は使わず個室を使うこと)。第二に、例外の利用者の手続(事前の申込み、他の会員への周知)を決めること。第三に、例外の利用者が更衣室等を使わない運用を、設備の側で担保することです。
性自認にかかわる利用の相談には、方針・窓口・代替の三つで備える
性自認(自分の性別をどう認識しているか)への配慮が必要な会員から、更衣室・シャワー室の利用の相談を受けることがあります。方針は運営者が決める事項ですが、次の三つを用意しておくと、現場の判断が属人的になりません。
- 方針:区分の考え方と、利用の可否を判断する基準を、あらかじめ社内で決めておく。当日の受付で個別に判断しない。
- 窓口:更衣室等の利用に配慮が必要な場合は、事前に申し出られることを規約と予約画面に書き、担当者と記録の閲覧者を限る。
- 代替:個室の更衣スペース、時間帯の調整など、複数の選択肢を示せるようにしておく。
気をつけたいのは、性別を確認するために戸籍や診断書などの証明を一律に求めないことです。個人情報は利用目的を特定して取り扱う必要があり(個人情報保護法17条)、更衣室等の運用に必要な範囲を超えて性別に関する情報を集めると、目的との関係を説明しにくくなります。また、他の会員から苦情が出たときに、特定の会員の属性を理由として説明すると、その会員の個人データを本人の同意なく他の会員に伝えることになり得ます(同法27条1項)。苦情への返答は、規約に基づく説明にとどめ、個別の会員の事情には触れません。
トレーナーが身体に触れる場面と、私的な連絡:会員もトレーナーも守る書き方
フォームの修正、ストレッチの補助、器具の調整など、トレーナーが会員の身体に触れる場面があります。必要な接触でも、会員が不快に感じたり、後から性的な意図を疑ったりする余地があります。触れる前の説明、触れてほしくない部位の申出、申出があったときの扱いの三つを、同意書と規約に書いておくと、双方が守られます。
「異性の施術者の接触による不快感の主張について、責任を負わない」という免責は、見直す
施術を伴うサービスの規約に、「身体に直接触れる施術であるため、異性の施術者から身体への接触行為による不快感・嫌悪感及びハラスメントなどの主張について、当店は一切の責務を負わない」という趣旨の条項が置かれていることがあります。この書き方には三つの問題があります。第一に、運営者の債務不履行や不法行為による賠償責任の全部を免除する条項は、会員が消費者であれば、消費者契約法8条1項1号・3号で無効とされます。第二に、実際に不適切な接触があった場合まで、責任を免れる趣旨に読まれるため、規約全体の信頼を損ないます。第三に、会員から申告があっても運営者は何もしないと宣言しているのと同じで、トレーナーを守れません。
書き方の例(一般的な例) 身体に触れる指導の規約
接触の免責
理由全部免除は無効(消費者契約法8条1項)。申出の仕組みがある方が、トラブルの予防とトレーナーの保護に役立つ。
担当者の性別
理由担当者を選べないことが不安の原因になる。受けない選択ができれば、運営も説明しやすい。
条文例
利用規約 第◯条(身体への接触を伴う指導)
1当社のトレーナーは、フォームの修正、ストレッチの補助その他指導上必要な範囲で、会員の身体に触れることがある。トレーナーは、触れる前に、触れる部位と目的を会員に伝える。
2会員は、触れてほしくない部位があるとき、又は接触を止めたいときは、事前又は指導中にいつでもトレーナー又は当社に申し出ることができる。トレーナーは、申出を受けたときは、直ちにその部位に触れることをやめ、触れない方法で指導する。
3会員は、担当するトレーナーの性別その他の希望を、予約の際に申し出ることができる。当社は、可能な範囲で希望に沿うよう努める。希望に沿えない場合に、会員がその回の指導を受けないことを選んだときは、その回の利用回数を消化しない。
会員の側の申出とトレーナーの側の対応を、対にして書いた例です。第3項の「消化しない」は、受けない選択に不利益を付けないための定めです。回数券の消化の考え方は、予約キャンセルの「1回消化」のページで扱っています。
個人の連絡先とSNS:会員からトレーナーへ、トレーナーから会員へ、双方向で書く
実務では、トレーナーに対して顧客への個人的な連絡先の交換やSNSでの直接の営業行為を禁止する条項(業務委託契約書)と、会員の禁止事項に施術者の電話番号やメールアドレスを聞く行為を挙げる条項(来店客の規約)が、それぞれ別の書類にばらばらに置かれていることがあります。ジムで私的な連絡が問題になるのは、会員がトレーナーに執着する場合と、トレーナーが会員を私的に誘う場合の両方です。どちらかだけを書くと、書いていない側で起きたときに止める根拠が弱くなります。
- 会員向けの規約には、トレーナーの私的な連絡先やSNSアカウントを尋ねる行為、スタジオの外で接触しようとする行為、トレーナーの個人のSNSを特定して連絡する行為を、禁止事項として書く。
- トレーナー向けの契約書や社内の文書には、会員との私的な連絡先の交換、SNSでの直接の勧誘、スタジオの外での個別の会食や誘いを禁止し、例外を認める場合の手続(運営者の承諾)を書く。
- 交際が生じた場合は、申告と担当の変更の手順を決める(トレーナーの顧客引抜き・競業避止のページでも触れています)。
会員から従業員・トレーナーへのカスタマーハラスメント:線引きと、中止・利用停止の段階
ジムのカスハラは、長時間のクレーム、結果が出ないことを理由にした暴言、回数券やキャンセルへの執拗な抗議、謝罪の強要、SNSでの晒しの予告、担当トレーナーへの付きまといなど、さまざまです。カスハラへの備えの出発点は、正当な苦情と不当な要求を分ける基準を、運営者が持つことです。基準がないと、現場は「我慢する」か「感情的に対応する」かに傾きます。
正当な苦情と不当な要求の見分け方:要求の内容と、手段・態様の二つで見る
カスハラかどうかを判断する観点として、厚生労働省が公表している資料では、顧客等の要求の内容が契約や提供した内容に照らして妥当か、要求の手段や態様が社会通念上相当か、の二つの面から見ることが示されています。ジムに当てはめると、次のように整理できます。
| 言動の例 | 要求の内容 | 手段・態様 | 対応の考え方 |
|---|---|---|---|
| キャンセル期限を過ぎた予約を消化しないよう、受付に大声で求める | 規約の定めと合わない(規約に沿って消化済み) | 大声、威圧、長時間 | 内容は断る。態様が改まらなければ、複数人で対応し、中止を伝える |
| 結果が出ていないとして、全額の返金を求める | 契約の内容によっては、検討すべき申出でもある | 冷静に求める場合は正当な苦情 | 冷静な申出は受け止めて検討する。暴言や脅しが加わった部分だけを止める |
| トレーナーの個人のSNSを探し、メッセージを送る | 業務と無関係 | つきまとい | 禁止事項に該当。警告、利用停止を判断する |
| セッション中にトレーナーの身体に触れる、性的な発言をする | 業務と無関係 | 身体的接触、性的な言動 | 直ちに中止し、会員とトレーナーを離す。記録し、利用停止を判断する |
同じ苦情でも、冷静な申出と、威圧を伴う要求は分けて扱います。内容が正当でも、手段が不当なら、その手段だけを止めます。
大切なのは、「内容が正当かどうか」と「手段が相当かどうか」を別に判断することです。返金の申出が検討に値するなら検討を進め、暴言や長時間の拘束など、手段だけを止めます。両方を混ぜると、正当な苦情まで門前払いにしてしまいます。
雇用するトレーナーと、業務委託のトレーナーで、備えが変わる
2026年10月1日から、事業主には、顧客等の言動により、雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の措置を講じる義務があります(労働施策総合推進法の令和7年改正、令和8年厚生労働省告示第51号の指針)。厚生労働省は、措置の内容として、方針の明確化と周知、相談窓口の整備、相談後の迅速で適切な対応、悪質な言動への対処方針の事前の決定、相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止を挙げています。現場の誰が中止を判断し、相談はどこに行くかを決めておく必要があります。
一方、業務委託のトレーナーは、この義務の対象である「雇用する労働者」ではありません。フリーランス法の14条は、特定業務委託事業者に、業務委託に関して行われる性的な言動などによる就業環境の悪化を防ぐ体制整備を求めていますが、顧客の言動への対応を求める規定かは、文言から一義的には読み取れません。断定せず、契約で相談窓口、中止の権限、中止したときの報酬の扱いを決めておくのが実務的です(業務停止期間の報酬はトレーナー報酬とフリーランス法のページで整理しています)。雇用と業務委託のトレーナーが混在する店舗では、同じ相談窓口と中止の手順を使える設計にすると、現場が混乱しません。
段階を決めて、規約に書く
カスハラへの対応は、行為の重さで段階を分けます。軽い行為は注意から、身体への接触や脅しは段階を飛ばして直ちに中止します。民法では、相手が債務を履行しないときは催告のうえ解除するのが原則で(541条)、催告なしに解除できるのは542条に定める場合に限られます。軽い言動まで即時の除名にすると、消費者契約法10条の審査を受けやすくなるため、段階と、飛ばせる場合を書き分けます。
会員の言動への対応の流れ(一例)
身体への接触、脅迫、撮影、付きまといなど、安全に関わる行為ですか。
はい直ちに中止し、当事者を離す。管理者が利用停止を判断し、必要に応じて警察に連絡する。理由は後から書面で通知する。
いいえ → 次へ
大声、暴言、長時間の拘束など、手段が相当でない行為が続いていますか。
はい担当者が規約の条を示してやめるよう求め、改まらなければ警告して管理者に引き継ぐ。
いいえ → 次へ
警告後も改まらない、又は同じ行為を繰り返していますか。
はい管理者が、利用の中止と、一定期間の利用停止又は会員資格の取消しを判断する。通知は日付と該当の条を示して行う。
いいえ → 次へ
いずれの段階でも、日時と言動の事実を記録します。
条文例
利用規約 第◯条(従業員等に対する迷惑行為への対応)
1会員は、当社の従業員、トレーナーその他当社の業務に従事する者(以下「従業員等」という。)に対し、暴力、脅迫、暴言、威圧、執拗な要求、長時間にわたる拘束、土下座その他の謝罪の強要、つきまとい、私的な連絡先の要求、無断の撮影又は録音、性的な言動、その他従業員等の就業環境を害する言動をしてはならない。
2会員が前項に違反したとき、又は違反するおそれが高いと当社が合理的に認めたときは、当社は、指導又は応対の中止、注意、警告、一定期間の利用の停止又は会員資格の取消しの措置を講ずることができる。安全に関わる場合は、警告を経ずに、直ちに中止し、又は利用を停止することができる。
3当社は、前項の措置を講ずるときは、会員に対し、理由となった言動の日時及び該当する本条の定めを示して通知する。
4前項の措置を講じた場合の料金の取扱いは、第◯条(利用停止の場合の精算)による。
禁止する言動を具体的に挙げ、措置の段階と、警告を飛ばせる場合を分けています。申出の内容(返金の申出など)ではなく、言動の手段を対象にしている点が要です。
利用停止のときの精算:「返金しない」と書く前に、計算の筋道を示す
迷惑行為で利用を停止したとき、残っている回数券や月会費をどうするかは、争いになりやすい点です。「違反による利用停止の場合、既に支払った料金は一切返金しない」という書き方は、会員が消費者のとき、消費者契約法の審査を受けます。運営者が契約を解除して実質的に違約金を取る形なら9条1項1号(同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効)、契約を続けたまま過大な負担を科す形なら民法90条や消費者契約法10条の問題になります。回数券の払戻しの全般はジムの利用規約の返金ルールのページで整理しています。
筋道を示すために、次の仮の数字で考えてみます。10回の回数券を120,000円(1回あたり12,000円)で購入した会員が、4回を消化した後に、従業員への迷惑行為で利用を停止されたとします。
| 項目 | 考え方 | 数字の例 |
|---|---|---|
| 消化済みの4回分 | 提供した役務の対価。1回あたりの金額で計算する | 12,000円 × 4回 = 48,000円 |
| 未消化の6回分 | 提供していない役務の対価。原則として返す部分 | 12,000円 × 6回 = 72,000円 |
| 運営者に生じた実費 | 備品の破損、清掃、振込の手数料など、実際に生じて説明できるもの。会員に請求するか、返金額から差し引く | 振込手数料の実費など、金額を示せる範囲に限る |
| 返金額 | 未消化分から、説明できる実費を差し引いた額 | 72,000円 − 実費(例:振込手数料) |
数字は説明用の仮のものです。実際の精算は、割引の有無(割引があれば割引後の単価を使う)と提供済みの範囲を踏まえて計算します。
条文例
利用規約 第◯条(利用停止の場合の精算)
1当社が、会員の第◯条(従業員等に対する迷惑行為への対応)又は第◯条(更衣室等における撮影の禁止)への違反を理由として、会員の利用を停止し、又は会員資格を取り消したときは、当社は、会員が支払済みの料金のうち、既に提供した役務の対価を除いた未提供の部分を、次項の定めにより精算して返金する。
2前項の返金額は、未提供の部分の額から、当該違反により当社に現実に生じた損害のうち通常生ずべきもの(備品の修理費、清掃の費用その他当社が根拠を示すことができるもの)を差し引いた額とする。当社は、会員から求められたときは、差し引いた額の内訳を説明する。
提供済みと未提供を分け、差し引くのは実費に限った例です。返金の期限は運営の実態に合わせて書き足します。
迷惑行為の記録は、従業員の個人情報でもあり、会員の個人データでもある
カスハラの記録(日時、場所、言動の内容、対応した人)には、二つの個人情報が含まれます。会員についての記録は、個人データとして安全管理措置を講じ(個人情報保護法23条)、利用目的(迷惑行為の再発防止、利用の可否の判断など)を特定しておきます。他の店舗や会社と迷惑行為をした会員の情報を共有する場合は、第三者への提供にあたり、本人の同意か、27条1項に列挙された場合に当たるかを確かめる必要があります。
もう一つは、被害を受けた従業員やトレーナーについての記録です。相談の記録に、被害の内容が含まれるとき、「犯罪により害を被った事実」は要配慮個人情報にあたり得ます(同法2条3項)。要配慮個人情報は、原則として、あらかじめ本人の同意を得ずに取得できません(同法20条2項)。相談を受けるときは、記録の目的、閲覧できる人、保存期間を本人に伝えて同意を得て、会員の記録とは保管場所を分けます。
よくある失敗と直し方
書き方の例(一般的な例) 更衣室・盗撮・カスハラの規約
カスハラへの対応
理由判断を運営者の裁量だけにし、返金を一律に否定する書き方は、消費者契約法9条1項1号・10条の審査を受ける。
ヒヤリングで確認すること
設備の配置と人員の体制は、そのまま条文の前提になります。次の問いに先に答えておくと、書けないこと・約束できないことが見えます。
ヒヤリングの問いと理由 更衣室・盗撮防止・カスハラ対策の規約を書く前の問い
- 更衣室とシャワー室は、男女別ですか、個室ですか、時間帯で分けていますか。扉や仕切りの構造は、どのようになっていますか。分け方によって、規約に書く区分と例外が変わる。構造(隙間、仕切りの高さ、鍵)を知ることで、盗撮の危険のある箇所を洗い出せる。
- 女性専用(又は男性専用)をうたっていますか。例外として、誰を、どの条件で受け入れていますか。例外の基準と手続を規約・予約画面・掲示にそろえて書く必要がある。例外の利用者の動線も確認する。
- 更衣室等の利用に配慮が必要な会員から相談を受けたとき、誰が対応しますか。個室など、代替の手段はありますか。方針、窓口、代替を決めておけば、受付での個別判断を避けられる。窓口の記録の閲覧者も決められる。
- トレーナーは会員の身体に触れる指導を行いますか。触れる前の説明と、触れてほしくない部位の申出の方法は決まっていますか。同意書と規約に書く内容が決まる。
- 雇用しているスタッフとトレーナーはいますか。業務委託のトレーナーもいますか。雇用する労働者には事業主の措置義務が及び、業務委託のトレーナーには別の整理になる。相談窓口と中止の権限の設計が変わる。
- 会員の言動で困った経験は、どのような場面で、何回ありましたか。そのとき、誰がどう対応しましたか。実際の場面から、禁止事項と段階を書き起こせる。
答えが「決まっていない」ものが多いほど、規約より先に運用を決める必要があります。決めた運用を、規約・掲示・社内の文書の三つに同じ言葉で書くことが、整合性の確認の基本です。
よくあるご質問
ジムの更衣室やシャワー室での盗撮を防ぐために、規約には何を書けばよいですか?
更衣室・シャワー室・トイレとその出入口付近での撮影・録音と、撮影機能のある機器の操作を、例外なく禁止します。トレーニングエリアでは他の会員が映り込まない範囲で認めるなど、場所ごとに扱いを分けます。疑いがあるときの画像の提示のお願いと、退館を求められること、機器の取り上げや強制削除はしないことも書きます。
女性専用のジムで、例外として男性を認めるときは、どう書けばよいですか?
「原則として女性を対象とする」と書くだけでは、例外の基準が分からず、苦情を受けやすくなります。例外を認める条件(会員の同伴、利用できる時間帯、更衣室等を使わないこと)と申込みの手続を書き、例外の利用者の動線を設備の側でも分けます。規約・予約画面・掲示の言葉をそろえます。
会員の性自認への配慮が必要な相談を受けたとき、運営者はどうすればよいですか?
更衣室・シャワー室の方針、申出の窓口、代替の手段(個室、時間帯の調整)を事前に決めておきます。戸籍や診断書などの証明を一律に求めることはせず、必要な範囲で聞き、相談の記録の閲覧者を限ります。他の会員から苦情が出ても、特定の会員の属性を理由として説明しないようにします。
会員から従業員へのカスハラは、2026年10月から何か義務になりましたか?
2026年10月1日から、顧客等の言動により、雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の措置を講じる義務が、事業主にかかります(労働施策総合推進法の令和7年改正)。業務委託のトレーナーは雇用する労働者ではないため、同じ仕組みの直接の対象ではなく、契約で相談窓口や中止の権限を決めておくのが実務的です。
会員の迷惑行為で利用を停止したとき、回数券の残りは返金しなくてもよいですか?
「一切返金しない」と一律に定めると、会員が消費者の場合、消費者契約法の審査を受けます。提供済みの回数分の対価と、未提供の部分を分け、未提供の部分から、根拠を示せる実費を差し引いた額を返す形にしておくのが、説明しやすい書き方です。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。法令の解釈や行政の運用は、個別の事情や今後の改正・通知によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は、法令の原文と官公庁の公表資料で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 国民生活センター / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 個人情報保護委員会